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彼と一緒にいたいΩの僕が発情期抑えるためにαと番になることは許されますか?~ぼくのうた きみのこえ~
アイドル事務所 スターチャート
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「発情期になったら『つがい』になろう」
その言葉を信じて自分がΩだという嫌悪、
いつか迎える発情期への不安を日々我慢してきた…。
ただ神様は意地悪だ。
不平等の世界を作っただけでなく、
たったひとつの約束まで奪っていくなんて…。
この世の中は男女の他にもう一つの性が存在する。
あらゆる能力に長け、エリートであるが故、世の中の重要ポストにつくα。
人口の大半を占める平凡なβ。
そして、αをヒートという激しい発情状態にし、
狂暴化させてしまう発情期をもつため、社会のお荷物とされるΩ。
この世界は平等と謳いながらも、階級社会である。
「うわぁ、満開だ!」
十三歳の神山璃玖は急こう配の坂に広がる桜並木に思わず声が出る。
(先週はほとんど蕾だったのになぁー)
駅からちょっと歩くが、都内ながらも落ち着いた雰囲気で、
桜並木が続くこの坂道が璃玖のお気に入りになっていた。
(花時、花盛り、花明かり…うーん桜はキレイな言葉がいっぱい)
小さい頃から、友達と外で遊ぶよりも祖父の残した書斎で本を読み耽っていた璃玖は、内気な性格で人見知りだった。
そんな璃玖だったが、芸能プロダクション・スターチャートの養成所に研修生としてひと月ほど前から通い始めている。
スターチャートは星図という意味らしく、星座の名前をモチーフにした男性アイドルグループを研修生の中から数多くデビューさせている。
研修生募集のオーディションは半年に一度ほどのペースで定期的に行われているが、必ず合格者が出るというわけではなく、審査員や社長の目に留まった者だけが合格出来るようになっている。
璃玖は真っ黒な黒髪に、クリっとした黒い瞳。
丸みを帯びた輪郭で、同年代と比べて肌はとても白かったが、身長は平均より少々小さく、一般的に地味と言われる容姿だった。
アイドル好きの母が勝手に応募した書類選考ののち、歌やダンスのテストがあったが、なにも準備をしてきていない璃玖は、もちろんうまく出来るわけもなくオーディションでは浮いた存在だった。
記念受験程度に思っていた母は、合格の連絡がきた時には喜んでいたが、
いざ契約をするまでは詐欺なんじゃないかと疑っていたくらいだ。
璃玖も不思議でたまらなかったため、契約の時に目の前に座った社長に「なぜ僕なんですか?」ときいてみたが「勘」と言われ笑われてしまった。
結局、受かった理由はわからずじまいである。
(いつも思うけど立派な建物…)
坂を上り切った先にある、ひと際大きな建物がスターチャートの事務所兼養成所だ。
有名な建築家がデザインしたという地上三階、地下二階の建物は中は吹き抜けになっており、外観はルネサンス様式でレンガ造りになっている。
雑誌の撮影なんかにもよく使われるらしく、先輩たちの撮影現場も目にする機会も多かった。
エントランスを抜け、受付のお姉さんと警備員さんに会釈をして、セキュリティーゲートを通過する。
急ぎ足で吹き抜けの階段を降りると、手前からシャワールーム、ロッカールーム、そして様々なスタジオが並んでいる。
璃玖はロッカールームに荷物をしまい、養成所から渡されているレッスン着に着替えレッスンルームに向かう。
スタジオは地下部分にありながらも、柔らかい光の日光が差し込むような作りになっている。
平日は放課後の時間帯、土日祝日は一日中レッスンは行っているが、月の最低限レッスン数以外は基本的に自由参加となっている。
また、スタジオが空いているときは好きに利用していいことになっていた。
ただ、何か目標をもって研修生となっていない璃玖は、とりあえず最低限のレッスン数をこなすためにしか参加しておらず、まだ数回しかレッスンを受けていない。
スタジオに入ると、鏡の前で振り付けの練習をしている子や、発声練習をしている子が二十人ほどいた。
研修生は名前と写真を廊下に張り出されているため、顔と名前はなんとなく知っている。
だが、ただでさえ人見知りな璃玖は話しかけることが出来ず、まだ友達と言える子や挨拶が出来る子もいなかった。
(今日はなんのレッスンだっけ…。とりあえず…ストレッチしておこっと)
璃玖は静かにすみっこを確保して、足元に飲み物とタオルを置き一人で準備運動を始めた。
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