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彼と一緒にいたいΩの僕が発情期抑えるためにαと番になることは許されますか?~ぼくのうた きみのこえ~
いじわるだけど優しくて
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全員の発表が終わり、休憩時間になった。
璃玖は思い思いに休憩している研修生の中から一樹の姿を探す。
(八神君は…いた!)
四人グループの中で、壁に寄りかかりながら話をする一際背が高い一樹の姿を見つけ、一目散に璃玖は駆け寄る。
そして、勇気を振り絞って一樹に近づき「あ、あの!」と声をかけた。
緊張のせいで声が少々大きくなってしまい、一樹と話していた全員が璃玖の方を向く。
「なに、何か用?」
ただ、一番に答えたのは一樹ではなく、一樹の隣にいた、まるで女の子と間違えてしまいそうな容姿の|葉山伊織《はやま いおり》だった。
(うわぁ…きれい…お人形さんみたいだ)
サラサラで色素が薄い髪に、切れ長の瞳で長い睫毛の伊織は、まさに西洋のお人形のようだった。
しかし、そのきれいな顔は、眉間にしわを寄せ、鈍い璃玖でもわかるくらい不機嫌そうな顔をしていた。
まだ話しかけただけなのに、なぜ怒っているのか、璃玖には全く見当がつかなかった。
「あの、八神君にさっきのお礼を言いたくて…」
璃玖は一生懸命声を絞り出す。
だが伊織の不機嫌そうな顔が目に入り、萎縮してしまい、語尾の方は消えてしまいそうなくらい小さい声になって、そのまま俯いてしまった。
「えー、なにー?聞こえないんだけど」
伊織はわざとらしい口調で腕を組みながら璃玖に近づき、俯いた璃玖の顔を覗きこんできた。
(こ、こわい…)
璃玖はますます不安になり、レッスン着のTシャツの裾をキュッと握った。
すると、伊織と璃玖の顔の間にスッと手のひらが現れた。
「ストップ。伊織、そういう言い方よくない」
間に入ったその手は一樹のものだった。
(大きな手…)
「ふんっ、なんだよ、一樹のバカ。勝手にすれば」
伊織は綺麗な顔をプイっと背けて、足音を立てながら、そのままスタジオを出て行ってしまう。
「おい、伊織待てよー」
そう言って、一樹と一緒にいた残りの二人も伊織の後を追いかけて行ってしまった。
「ったく、しょうがないやつ。あいつ人一倍ライバル意識強いからなぁ…」
一樹は顔の前で手を合わせ璃玖に「ごめんなっ」と言った。
「ううん。僕が何か気に触ることしちゃったんだと思う」
璃玖は人見知りのせいで、声が小さくなり何度も聞き返されたり、うまく気持ちが伝えられず、相手をイライラさせてらしまったことが何回もあった。
きっと今回も自分が原因なんだろうと璃玖は納得した。
「まぁ、あいつが勝手にライバル視しているだけだしなぁ…。神山はこんなにチビでかわいいのになぁ」
ふと、璃玖の頭の上に優しく一樹の右手を置かれたと思うと、大きく左右に動かし、髪をわしゃわしゃっと思いっきり撫でられる。
「ちょ、ちょっと八神君…!!」
璃玖は首を振って抵抗したが一樹は手を止めない。
「うーん、そんなことしていると、更にうちの黒柴みたいだな」
璃玖は「やめてよっ」と言いながら更に首を強く振るが、抵抗虚しく、今度は両手で、まるで本当に犬を愛でるかのように、一樹にわしゃわしゃと頭を撫でられる。
「一樹って呼んだら止めてやるよ」
乱された前髪で璃玖は視界が遮られてしまって一樹の表情はわからないが、明らかに一樹は楽しんでいる様子なのは璃玖でもわかる。
「わ、わかったよ。一樹、ストップ、ストップ!!」
一樹はやっと手を止めた。
「うわ、ボッサボサ」
(自分がやったんじゃないか!)と、璃玖は言い返そうとしたが、今度は、髪を梳かす用に一樹は璃玖の頭を優しく撫でてきた。
璃玖は頭を撫でられる感覚に慣れておらず、心地よさに今度は抵抗するのを忘れてしまう。
「そうそう。いい子、いい子。な、りーく」
「………もうっ、僕は犬じゃないんだけど!」
ハッとした璃玖は、今度こそ一樹の手を止めるため、頭に置かれた右手の手首を掴んだ。
ただ、やられっぱなしでは癪になり、璃玖は一樹の手の平を「はむっ」と思いっきり噛みつくフリをした。
「おー、怖っ」
一樹が手を引っ込めた瞬間、お互いに真剣な顔で目が合ったが、数秒後、どちらからともなく吹き出し笑いあってしまった。
スタジオに残っていた他の研修生たちが、急に笑い出した二人を不思議そうにみる。
「あー、おもしろ。ちなみに、璃玖はチビだけど何年生?」
「…チビは余計だよ。今年中一になったところ」
一樹は、璃玖より頭半分ほど背が高い。
手足も長いが顔は小さく、まるでモデルのようだった。
一方、一樹に比べて璃玖は、先日の身体測定で、自分が平均身長以下で、背の順が先頭になってしまったことについて少々ショックを受けていたところだった。
「なんだタメなんだ。早く璃玖にもオレみたいに成長期くればいいなー」
「僕は平均よりちょっと足りないだけで…」
「足りない…」
一樹はそう言って、璃玖の頭の先から足の先までゆっくり見直して、今度はお腹を抱えながら笑いだす。
「一樹!!」
璃玖は顔を赤くしてまた怒り出すが、さらに一樹の笑いを誘ってしまう。
「もう知らない!」
今度は、璃玖は口先を尖らせ、拗ねたように顔を背けた。
「ごめん、ごめん。はぁー、なんかいいなぁーこういうの」
「えっ?」
ようやく笑いが収まった様子の一樹だったが、腕を頭の後ろで組みながら、壁によりかかり、ゆっくりと喋りだす。
「ここのやつら、オレがダンス出来るってわかってから、なんか微妙な距離感じるんだよなぁ。正直この半年、息がつまりそうだった。まぁ、そういう世界なのかもしれないけど…」
一樹は溜息交じりに、少し寂しそうに言った。
「実は璃玖のこと、何度か廊下や合同レッスンで見かけていたんだ。その時、よく目を瞑って考えている感じだったから、集中するのに必要なのかと思ってさ。さっきのレッスンでは夢中で声かけてた」
一樹はにっこりと優しく璃玖に笑いかける。
(意地悪…だけど優しいんだな)
「ほんとにありがとう。あの時は頭が真っ白だったから、本当に一樹には助けられたよ」
璃玖は改めて一樹にぺこりと頭を下げてお礼を言う。
「いいって。オレが勝手にしただけだし。それより、璃玖は何か音楽とかやっていたの?」
一樹の問いかけに璃玖は首を横に振る。
「全然。歌うのも踊るのも苦手だし…せいぜいピアノをお母さんに習って弾いているぐらいだよ」
璃玖の家には母が嫁入り道具として持参した古いピアノがある。
物心ついたころから鍵盤に触っていたが璃玖だが、教室などには通っておらず、母とたまに連弾するぐらいだった。
「そっか。それでさっきみたいな曲が作れるんだから、璃玖の隠れた才能なのかもな」
「才能…」
今まで自分が考えたこともないことを言われ、璃玖は少々驚き、戸惑う。
たしかに、あの言葉が溢れてくる感じはとても不思議で自分が自分ではないような、今まで璃玖が感じたことがない感覚だった。
「すごくきれいな旋律だったけど、切ない感じが伝わってきて、今まで聴いたことない感じだった」
璃玖は気恥ずかしくなり、顔を赤らめてしまう。
「ほ、褒めすぎだよ。頭に浮かんできたままに歌っちゃったから、曲自体あまり覚えていないし…」
実際、先ほどのレッスンは無我夢中で、歌った内容は璃玖はほとんど覚えていなかった。
「そうなの?えーもったいない。オレ、璃玖の作った曲で今度踊ってみたいもん」
璃玖は、自分が作ったものや思ったことにこんなに興味を持たれたことがなかったため、さらに嬉しくなった。
しかも、男の璃玖からみても一樹は格好いいし、長い手足で踊るダンスはきっと見栄えし、人を魅了するだろう。
一樹のダンス姿を想像しただけで璃玖はワクワクする。
しかもそれが自分の作った曲だったら…と考えると期待で璃玖の胸が躍る。
「僕が作ったもので、一樹が踊ってくるなら…嬉しいかも」
そう璃玖が答えると、一樹は満足そうに顔をほころばせ笑った。
「やった!じゃあ試しに何か作ってきてよ。んで、合わせてみようぜ」
「で、でも、僕、本当に曲とか作ったことないんだよ」
「わかってるよ。でも、オレはもっと璃玖の作った曲が聴いてみたい」
「…うん!!がんばってみる」
「じゃあ、ハイタッチ!」
そう言いながらも、一樹は手を目一杯高く上げているため璃玖には届かない。
「もう、一樹っ!!」
「ごめん、ごめん。とりあえず再来週の日曜日、オレいつも朝一にこのスタジオいるから。八時に待ち合わせな」
改めて、今度は一樹の顔の高さに広げられた手に思いっきり璃玖はハイタッチをした。
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