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「あっ、うんそう。母親は俺が小さい頃病気で亡くなったんだ。本当に小さい頃の話だから、俺もぼんやりとしか覚えてないんだけどね」
「うちもだ」
「えっ?」
「うちも母親を亡くしている」
その告白に俺はただ黙って小糸を見つめた。経験則からこんな時、同情の言葉など欲しくはないだろうと思った。
「今祖母と一緒に暮らしてて、高齢だから、俺も色々家のことを手伝わなくちゃいけないんだ。だから休日とか放課後とか予定が合わなくて。悪いな」
頭を下げた小糸に、俺は急いで首を振った。
「ううん。そんな理由なら早く帰って当たり前だよ。俺の方こそ、この前先に帰ること責めるみたいに言ってごめん」
俺がそう言うと小糸が俺に微笑みかける。
その微笑みを見て、やっぱり俺は小糸が好きだという思いを一層強くした。
絶対に小糸に、最高の誕生日を過ごさせてやる。
俺の決意など知る由もない小糸は、ふいに表情を引き締めた俺を、不思議そうに眺めていた。
誕生日当日、父は午前中からいそいそと職場のクリスマス会に出かけて行った。
例年通りなら、日をまたぐ頃にならないと帰ってこないだろう。
「次子さん、味見して」
自家製ドレッシングの入ったボウルを次子さんに差し出す。次子さんは小指の先をちょんとそれにつけ、舐めた。
「うん、美味しい。貴雄さんは料理の才能がございますねえ」
「そうかな。先生が良いおかげじゃない?」
そう言って俺は次子さんと顔を見合わせて笑った。
「旦那様がいらっしゃると、貴雄さんはお台所に入れませんものね」
次子さんが悲し気にため息をついた。
今日はクラスメイトを招いてクリスマス会をやるから、準備を手伝って欲しいと次子さんにお願いをしていた。もちろん父には秘密だ。
「男子厨房に入るべからずと言っても、最近は男性も、お料理ができた方がもてますのにね」
そんなことを話す次子さんの後ろでオーブンが鳴った。
「見て、次子さん。綺麗なきつね色」
焼きあがったスポンジを見て、俺は歓声をあげた。
「大成功でございます」
俺と次子さんはハイタッチした。
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