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翌日、俺はどんな顔をして正臣に会ったらいいのか分からなかった。
父親は朝起きたら昨日起こったことなど、全てさっぱり忘れていたが。
早朝の二人だけの勉強会も「寝坊したから、間に合わない」とメールを正臣に送信し、俺は始業時刻ぎりぎりに教室に滑り込んだ。
自分の席に着いても、正臣の方を見ることはできない。
いつもより元気のない俺を心配した本条が色々話しかけてきたが、俺は最低限の相槌すらまともに打てなかった。
スマホの入った制服のポケットが震える。
「放課後、用具室で」
顔を上げると、窓際に立っていた正臣と目が合った。
射貫かれそうな視線に慌てて俯く。
いつもなら嬉しいとしか感じない正臣からの呼び出しが、俺の気持ちを暗くさせた。
放課後、のろのろとした足取りで用具室に向かう。
このまま正臣を避け続けたとしても解決しないことは分かっていた。しかし足取りはどうしたって重くなる。
用具室の扉を開けると、正臣はすでにそこにいた。
言葉を発する前に、正臣にきつく体を抱きしめられた。
「心配した」
耳もとでぼそりと正臣が呟く。
「俺が帰った後、貴雄がまた父親に殴られたらどうしようって。そう思ったら居ても立っても居られなくなって、もう一度お前の家の前まで行ったんだ」
「えっ」
「でも家の中は静まり返っていたし、行ったはいいけど、呼び鈴を押す勇気がでなくて、結局そのまま帰った」
「わざわざごめん」
俺は正臣の両肩を押すと距離をとった。
「心配させてごめん。だけど、大丈夫だよ。ああいうの俺、慣れてるから」
「父親に殴られることになんて慣れちまうなよっ」
怒鳴った正臣が顔を顰める。
「悪い。でも大丈夫だなんて言うな。殴られたら誰だって痛いだろ?痛いって感じて当たり前なんだ」
正臣が俺の頭にそっと触れ、引き寄せる。
「痛いって気持ち、俺の前では隠すなよ」
そう言われた瞬間、喉の奥が詰まり、涙が盛り上がった。
「ごめん、泣くかも」
辛うじてそれだけ言うと、俺は口を手で押さえた。
「いい。無理して笑って大丈夫なんて言われるより、泣いてくれた方が一億万倍まし」
「一億万て」
俺はくすりと笑うと、正臣の固い胸板に額を押し付けた。
声を殺して泣く俺の背中を正臣はずっと撫でていてくれた。
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