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Uに悶着
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Uに悶着
※世界観として。
人間は男女の他、三種の性に分けられる。
α…カリスマを持つ、エリート階級のものが多い種族。
β…中間的地位。数が多い。
Ω…定期的に発情期(ヒート)が訪れる。社会的地位は低め。
七月下旬。
期末試験が終った高校内には、独特の空気が流れ出す。どこか浮わついた雰囲気。生徒はもちろん、教師でさえ喜びを隠せずじんわりと滲ませる。
待ちに待った夏休みが、間近に迫っている。
それは彼でさえ、例外ではない。
ただ自分がそわそわしているのは、決して夏休みなんかではなく…。
彼が考えながらシャーペンの蓋を前歯で齧っていたら、チャイムが鳴った。
(…あ。)
鼓動が一段と大きく耳に響く。
起立、着席、礼…。生徒の号令が遠くに聞こえた。
一瞬の喧騒。
後に女子が先を争うように教室を出ていく。
恥じ入る如く目をそらした彼の前で、扉が静かに閉ざされる。
男子だけの空間。彼はそろりと瞳を伏せる。机に突っ伏する彼に友人が声をかける。
「なぁ~、次、プールだぜ。早く着替えろよ、お前。」
「うるさい。」
ピシャリと無愛想に返すと、友人は唇を尖らせて去っていく。
彼は小さく瞳を動かし…奴を見た。
奴はすでに水着姿に変わっていた。剥き出しの腹筋が眩しい。彼は胸の内で舌打ちする。
(脱ぐとますます格好いいとか何だよ。)
更に鼻を鳴らして、拗ねる。
(…そりゃ、うちの高校はプールの更衣室の一つが雨漏りでぐちゃぐちゃだから、こうして教室で生着替えが見れるわけだけどさ。)
ムカつく、と呟いてから彼は奴が去ったのを確認して、そろそろと着替えを始める。
教室には、数名の生徒が遅まきながら着替えをしている。
彼がシャツを脱いだ、矢先だった。すぐ背後から声がする。
「…お前、いつも着替え始めんの、おっそいよな。」
「っ!!」
反射で、彼は手にしていた脱ぎたてのシャツを奴めがけて放つ。…顔面クリーンヒットした。
「ぬぁ゛っ!!?何だよ、急に!!」
慌てる奴を眺め、彼は無意識に鼻を鳴らす。
「…悪い、手元が狂った。ってか、あんたさっき教室出ていかなかった??」
「どんなアグレッシブな手元の狂い方してんの??…あ~、ちょっと忘れ物して。」
「ふぅん…。じゃあ、さっさと取っていけよ。」
「…何。お前、機嫌悪いの??」
「…別に。」
だんまりを決める彼に、クラスメートはそれ以上追及せずに教室を後にする。
奴の足音が聞こえなくなると、彼は足元から崩れ落ちる。
尻を浮かせた体育座りで、膝小僧に額をあて、ほんのり色づいた頬を隠す。
(喋っちゃった!!あいつと!!やばい、半裸まじまじ見ていたの、バレた!?)
急速に熱を孕んでいく顔に、彼は動揺を隠せない。
(わあ~!!わあ~!!…どうしよ、水泳の授業でまた会うのに…。何でもない顔、出来るよな…??)
彼は緩々と顔を上げ、机上の小箱を手にする。
小箱の表面には、『Ω用抑制剤』とある。箱を胸に押しあてて、彼はきゅうっと目を閉じた…。
「おっ、来た来た。」
「忘れ物、あったか??」
「おう。悪ィ悪ィ。ゴーグル忘れちまってさぁ…。」
「授業、遅れたらお前のせいな??」
「いやいや、大丈夫だって。教室、まだ残って着替えているヤツ、いたし。…そういや、さっき俺が話していた頭いいヤツも残っていたな。話しかけたら、機嫌最悪っぽかったけど。」
「ああ、あいつな~…。」
「ってか、あいつはいつも最後らへんに着替えるだろ。」
「え??なんでだ??」
「…お前それ知らないで声かけたのか??あいつは、Ωなんだよ。俺ら、αン中で着替えるの、あんまり気が進まないんだろ。」
「ほぉん…。」
「何だ、その気の抜けた返事は…。」
「いやぁ、俺そういうのあんま意識したことねぇからさ。」
「…お前のそういう無神経さが、あいつを怒らせたんじゃないかと、俺はひやひやするよ…。」
友人の呟きを脇に、男子生徒は天井を仰ぐ。
「へぇ。…あいつ、Ωなんだ。」
発した言葉は、誰かに届く前に、がなる蝉の合唱に溶け込んでいった…。
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