アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
、
-
「お疲れ。乗れよ」
コンサート会場を出た由良の前に一台の黒塗りされた高級車が止まった。
後部座席の窓が開き、中には同じ学校に通うクラスメイトの瀧澤 礼(たきざわ れい)が労いの言葉と共に乗車を誘ってくる。
「……」
「由良、乗れよ」
乗るか乗らないか悩んでいると、瀧澤は車の扉を開いて由良の細い手首を掴み、車内へと引き摺り込んだ。
「……っ!おいっ‼︎」
無骨な対応のせいで大切なヴァイオリンが落ちそうになり、由良が声を荒げると男は冷ややかな視線で一瞥してくるだけだった。
まるでさっさと乗らなかった由良が悪いのだと言わんばかりの態度に内心ムッと苛立ちが生まれる。
「……」
「……」
無言の車内は決して心地良い空間ではなく、由良は寧ろ息詰まる感覚に首元のネクタイを緩めた。
その姿を見た瀧澤が呆れたように口を開く。
「相変わらず、堅苦しい格好だな」
コンサートだったとはいえ、行き帰りのプライベートの移動にも関わらず、由良の格好はスーツだった。
一般的に舞台に上がる時は勿論正装はするものの、演奏後になると皆、リラックスしたくて、ラフな私服姿が多くなる。
しかし、由良はコンサート日は朝から晩まで決して服装を崩すことなく、正装を心掛けていた。
「僕の自由だろ。放っておいて」
ふんっと窓の方へ首を振り、気分悪げに由良が答えた。
そんな小さな抵抗が可笑しくて、瀧澤はそっと由良の手へ自分の手を重ねた。
が、その手を思い切り振り払われる。
「気安く触るな!」
「別に手を握るぐらい、いいだろ?」
怒鳴り付けるように拒絶したのに、返ってくるのは普段通りのトーンの瀧澤の口調で、由良は苛立ちが更に込み上がった。
「お前と手を握り合う理由がない」
噛み付くように言い返すと、一瞬だけ瀧澤の表情が虚を突かれたようになり、間が空いた。
だが、すぐに気持ちを立て直し、再びいつも通りのトーンで疑問を投げかけてきた。
「俺、お前のこと、好きって伝えたよな?」
己の気持ちを知って、自分の側に居るのなら手ぐらい握られても文句を言うなと言わんばかりの瀧澤に由良は面食らってしまった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 26