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恋 5
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「イカリさん、俺いらない……」
「貴方の意思を聞いているのですが。まあいいでしょう。明日の朝、少し出かけます。その時にもう一度聞きますので一晩ゆっくり考えて下さい」
シロと名付けられた少年の手に、コンビニで買った塩むすびを乗せて立ち上がる。
「外側のビニールは剥いで食べてくださいね。そのまま食べると体に悪いので」
「……………サクマさん」
「はい」
彼は何かを伝えようとしていたけれど、結局何も発することなく目を伏せるだけだった。
翌朝シロの様子を見に行くと、昨夜と全く同じ姿勢で、まだ少し薄暗い窓の外を眺めていた。
”一晩考えろ”と言ったせいか、あれから眠っていないのかもしれない。
台所の流しには、ボロボロに細かくなったビニールのゴミが置いてあった。
食べたあとは台所へ持って行くように教育されたのだろうか。
ゴミはゴミ箱に捨ててもらわないと困るのだけれど、まだ床に散らかしていないだけ良しとしよう。
「さて、シロさん。答えは出ましたか?」
「…………………」
答えなんて最初から決まっているくせに認めようとしない。いや、自分の気持ちに気付こうとしない。
「これは助言といいますか忠告なのですが、貴方はもう商品ではありません。ただの人間です。まあ、”ただの”と言うには少々難がありますが。
少なくとも碇さんは貴方を人として受け入れて下さっているのではないですか?
人は考え、思い、伝える生き物です。それを放棄してしまっては、手を差し伸べてくれている相手に失礼だとは思いませんか」
「しつれい……は、嫌なこと?」
「ええ、とても」
小さな手を握りしめて、細く息を吸って、小さく、小さく、ただ一言、
「あいたい」
と、彼は言った。
「わかりました。それでは出掛けますよ、準備してください」
「でかける……?」
「ええ、貴方の居るべき所に」
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