アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
はじまり
-
──血だ
自分の顔にベタベタと付着した赤黒い液体が血だと認識するのに随分と時間がかかった。いや、実際の時間を測ってみれば数秒にも満たないのだろうけど。
血塗れで床に倒れる女と、女に跨り、血にまみれた刃物を女に向けて何度も振り下ろす男。そのすぐ側で、その状況を目で見て理解をしても頭では理解できないまま、手足をロープで縛りつけられ、小さく震えながら床に伏す子どもがいる。
子どもは、声を出すのもままならない状況で、女の耳に届くか届かないか、いや、まったく届かない程の声で、女を、母を呼ぶ。だがその声が女に届くことは無かった。それでも何度も呼んだ。返事がないと分かっていても、何度も、何度も。涙が溢れ、嗚咽が混じりながらに呼ぶ。それでも、やはり返事はない。
そうするうちに理解した。母が死んだのだと。だが、理解をしても納得などできるわけもない。すぐに救急車を呼ぶべきなのに縛られたままでは何も出来ない。無力な子供には、何も出来ない。
助けられなかった。たったの一度も、守れなかった。誰も。何も。
ふと、自分の前に人影がうつる。母を殺した男の影だった。光を無くした瞳でじっと見る。男もじっと見下ろしてきた。しばらくそうして、目を合わす。絶望した瞳を向ける。
自分もコレに殺されるのだろうか。何を成すことも出来ないまま。あの人たちの望む子どもになれないまま。それは少しだけ、
「……嫌だなぁ」
みっともなく震える声で小さく呟いた瞬間に刃物が振り下ろされ、目の前が真っ暗になった。
──近くで、誰かが笑ったような気がした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 3