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そして悲しそうにじわりと涙を滲ませ、膝を抱いて縮こまってしまった。
「ご…ごめんね…」
ぽつりと溢された言葉に、ダンははっと身を引いた。
しまった。これじゃリオを責めてるみたいだ。
ダンは慌てて身を乗り出し、リオの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「リオのこと、責めてるわけじゃないんだよ?血をあげるって言いだしたのも、俺のほうなんだから。ね?」
俺は、三日に一度、リオに血液を提供している。
それは、リオが働きながら下宿をしている、宿屋の経営者にも、俺の家族にも伝えていない。
別に、毎日血を飲まなくても、人間と同じ食事をするだけで、多少は腹が膨れるらしいけど。
それも、せいぜいもって三日の間。
それが、リオの──吸血鬼の、“本能”を抑えられる、限界らしい。
「でも…ご…ごめん…ごめんね…ごめんね…」
ダンに頭を撫でられながら、リオは声を震わせ、ぎゅっと膝を抱きかかえた。
血の止まらないダンが近づいたことによって、本能が血を欲してリオを責め立てているのだ。
今のリオの“食事方法”では、決して満足に食事をしたとは言えないらしい。
前に何度か問い詰めたところによると、三日に一度、ほんの少しの血液を飲むというのは、パンをひと口、口に含んだようなものだという。
だからといって、毎晩ギリギリまで体を衰弱させて、リオに食事をさせるわけにはいかないし。
何より、リオが一番それを望んでいない。
リオは、俺を、人間を傷つけることを、何より恐れている。
吸血鬼らしくもない──…そんな性格になった理由は、よくわからないけれど。
「ね…リオ。最近はさ、昔のこととか…思い出してきてる?」
ダンはリオの頭を撫でながら、そっと問いかけた。
ダンの問いかけに、リオはそっと顔を持ち上げ、ふるふると首を横に振る。
リオは、この村の隅で俺に見つけられるまで、自分が何をしていたのかわからないという。
多分、記憶喪失──自分の故郷も、元居た場所も、なぜこの村に来たのかも、何もかも、知らない。
ただ、覚えていたのは、「リオ・ウォルシュ」という自分の名前と、言葉の話し方。
そして、血に飢えた吸血鬼の本能と、獲物への襲い掛かり方。
その辺は、まぁ──ご覧の通り。
空腹が限界に達すると、リオは最初に俺に噛みついた時みたいに、本当に肉食獣のように襲いかかってくる。
それもこんな小柄な体だから、あんまり怖くはないんだけどさ。
「そっか…早く、思い出せるといいね。お母さんのこととか、お父さんのこととか…きっとリオを心配してさ、一生懸命探しててれてる人がいるよ」
そう言うと、リオは少しだけ涙を零しながら、コクンと小さく頷いた。
そして膝を抱いたまま、ダンを上目に見上げる。
「…ダン…」
「ん…なぁに?」
「ごめんね…おれ…こんなに良くしてもらってるのに…なんにもお返しできなくて…」
ぽつりと溢された言葉に、ダンは一瞬ぴくりと停止した。
しかしすぐに首を横に振り、「ううん」と笑う。
「大丈夫だよ。俺だって無理してるわけじゃないし…ほら、また今度遊びに行ったらさ、あれ食べさせてよ。リオ特製の、オムレットにトマトのソースかけたやつ」
「え…?で…でも…」
「いいの!俺、あれ大好きなんだから。それこそ鍋から玉杓子まで、舐めちゃいたいぐらい美味しいんだよ?」
そう言って鍋からソースをすくう真似をすると、リオの悲しそうな目が、ようやくくすっと微笑んだ。
その瞬間、大きな瞳から、ぽろりと涙がこぼれ落ちる。
そのどこか悲しげな表情に、ダンの顔からふっとふざけた笑みが消えた。
無意識のうちに、ダンの指が、リオの涙に近づいていく。
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