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* * *
「ディ──ック!!」
約束通り、森の入口で待っていた友人に向かって、ダンはこぶしを振り上げた。
キャスケット帽を目深にかぶった少年が、攻撃を見越してすかさずガードする。
あっさり握りこぶしを受け止めた友人に、ダンはギリッと歯を食いしばった。
「心臓が…!飛び出るかと思ったんだけど…!」
「おう、だろうな。でも見ろ、あれ。感謝して欲しいぐらいだね」
ディックはダンのパンチを受けたまま、淡々とした声で言った。
だるそうな視線の先を追い、ダンは振り返る。
すると、先ほどダンが飛び出してきた小屋の付近を、千鳥足で通り過ぎる若者の集団が目に入った。
村の酒場でずいぶん飲んできたのか、小屋に向かって用を足す一人を、仲間が指をさしてげらげらと笑っている。
その誰もが同じキャスケット帽を身につけており、頭にかぶっていない者も、腰に挟んでぶら下げたりと、いかにも何かの集団であることを示していた。
それと同じキャスケット帽に、ダンは改めて向き直る。
「ディックんちの奴らじゃん…」
「おう、悪ぃな。でもアイツら、常にネタ狙ってっからよ。タイミング悪くお前ら出てきたら、ヤベェかなーと思ってよ」
ちっとも悪びれる様子もなくけろりと言い、ディックは「早くずらかるぞ」と仕草で示した。
色々と文句は言いたいものの、今はこの場を早く離れたほうがいいと、ダンも頷いて歩き出す。
ディック・ディズリーの家は、村唯一の新聞社だ。
とは言っても、経営者の実家がこの田舎村にあるだけで、本拠地はもっと西の大きな街にある。
“ディズリー一味”と囁かれるほどえげつのない追っかけ取材をすることで有名で、
しかしその荒々しいゴシップ記事は、変わり映えのない生活を送る人々に、飛ぶように売れていく。
ダンも最初、ディックもそういう類の人間だから、あんまり性格の良い奴ではないと思い込んでいた。
しかし実際合ってみたところ、予想通りだったといえばそうだが、そうではない。
口は悪いものの、腹を割って話せば村の少年たちよりか気が合ってしまい、
気づけば二人は親友のような存在になっていた。
もとより都会の空気に嫌気がさし疎開してきたというディックと、
ある理由から、村人たちに距離を置かれてしまっているダンとその一家。
どちらもはみ出し者同士、自然と意気投合したのが一番の理由だった。
二人は村の中心部へ戻り、何でもないという顔をしてぶらぶらと歩いていた。
どの家も大概は寝静まっているが、時々路地や酒場などから、深酒を楽しむ男たちの喧嘩や笑い声が漏れてくる。
この時間ならもう子供が出歩いてもギャンギャンお説教をしたがるお節介おばさんも居ないし、
ダンとディックは、あと一歳でこの村では“大人”と認められる年齢だ。
賑やかな酒場の前をちらりと気にしながら通り過ぎ、二人は完全に住宅地へと入っていった。
「で…とっとと家に帰らないってことは、何か俺に話したいことがあるんだろ?」
賑やかな声が遠のいた頃、ディックがキャスケットを指でいじりながら、ため息交じりに問いかけてきた。
その言葉に、ダンはぴくりと眉を寄せる。しかし足を止めることなく、むしろ早足になって村の反対側へ向かっていった。
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