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「言いたいことあるなら、はっきり言いなよ」
その言葉に、リオはびくっとして視線を上げる。
「あの…ダンに…伝えて欲しくて…。約束、準備できたから、いつでも…って…」
その“約束”とは、何か。
昨日のダンとの会話を思い出したディックは、つい微妙な感情を表に出していたが、リオが首を傾げたためすぐに手を左右に振った。
「あー…いいけど。そのぐらい、自分で言いに行けばいいんじゃん?」
「あ…うん…。でも…おれと居るとこ見られたら…あんまり…その…」
リオはうつむき、急にキョロキョロし始めたが、その言葉の先はディックにはわかっていた。
──よそ者の自分は好奇の目で見られるから、一緒に居るとダンまでそういう目に合うから。
そういうことを言うたびに、ダンが苦い顔をすることも知らず、リオはつまらないことばかり気にしている。
「じゃあ何、俺っていいわけ。今、一緒に居るんだけど」
良く動く舌からぺろりと出た言葉に、リオははっとして後ずさった。
あ、まずい。双方にその思いを顔に出したが、リオにはその意味が届かない。
「あっ、ごっ…ごめんなさい!おれっ…そんなつもりじゃ…!」
「ごめん。今のは俺が悪かった。聞きたいこと、すぐに口に出るんだ。ごめん」
ディックは「癖なんだ」と帽子を触り、気まずそうに目をそらした。
リオはふるふると首を横に振り、ディックの本意を知って、逃げるのを止める。
「ごめ…ごめん…ね…」
「だから…それもういいって。でも、ダン、何か具合悪いみたいだからさ、家の人に伝えてもいい?まずいことだったら、言わないけど」
具合が悪い──それを聞いたとたん、リオの表情が曇った。
もとより真っ白な頬から、色が抜けて、フードの影でない不安がその頬に影を落とす。
「だ…大丈夫…なの…?」
「あぁ、別に、大したことないって。今朝の配達の手伝い来なかったからさ、さっき寄ってきたけど、冗談言ってど突き返して来るぐらいの元気はある。バカがひく風邪もあるってこと」
ディックは呆れたようにそう言ったが、心配性のリオの脳裏では、昨晩自分のしてしまったことがとんでもない過ちとして膨れ上がっていた。
体調…悪い…?
まさか…おれの…せい…?
おれが…血を飲みすぎちゃったから…?
「…ど…しよう…」
ぽつり、と零したリオの不安を、ディックは聞き逃さなかった。
今にも駆け出しそうなリオを、ディックは手を握って引き止める。
「あのさ、ダンと何かあったなら…言いたいこと、はっきり言えよ」
「…えっ?」
突然の助言に、リオはきょとんと首を傾げた。
まだわかってないか──ディックはため息を零しつつ、手を離す。
「いや、ごめん。何もないならいいんだ。…伝言は、なるべく本人に伝えとくよ」
「あ…う、うん。ありがとう…」
リオは最後にもう一度、ぺこりと頭を下げると、振り返ることなく、早歩きでちょこちょこと去っていった。
地味な色のケープの揺れる様を、ディックは複雑な表情で見送る。
小さな影は、一瞬、ダンの家の方角を気にしていたが、すぐに踵を返し、自分の勤め先へ向かって走り始めた。
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