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──どうしよう…どうしよう…!
ごめんなさい…ダン…!
『ウォルフガング』に帰ったリオは、買い物を厨房に置くなり、裏手の井戸へ走っていった。
高価なケープを脱ぐのも忘れ、水を汲み、ごくごくと飲み干す。
それでリオの不安と罪悪感が洗い流されるわけではなかったが、
今朝からの喉の渇きに加え、先ほどの知らせを聞いて、焼けつくような痛みがリオの体を襲っていた。
どうしよう…どうしよう…!
きっと…おれのせいだ…!
おれ…もう…我慢できなくなってるんだ…
このままじゃ…おれ…
ダンのこと…いつか…
「…や…やだぁ…っ…」
三杯目の水を飲み干し、リオは汲み桶を抱えたまま、力なくその場に崩れ落ちた。
目をつむっても、堪え切れない涙が、ぽろぽろと溢れ出てくる。
失っていく水分を補うように、リオは井戸に寄りかかったまま、もう一度水を汲んだ。
そうして何度か補給を繰り返しているうちに、少しだがパニックが落ち着き、冷静な思考を取り戻していく。
でも…昨日の夜は寒かったから…本当に風邪なのかもしれない…。
だったら…お見舞い…行かなくちゃ…。
最後の一口を流し込み、リオはよろよろと立ちあがった。
いつの間にか、太陽がずいぶんと傾き、辺りには夕暮れ特有の気だるい空気が流れている。
井戸の側に干したシーツが夕風によってばたばたとはためき、その反射がリオの瞳を黒からオレンジにちらつかせていた。
そうだ…お客様…来るから…
お部屋の準備しないと…。
リオは予備のシーツを取り込み、アイロンをかけるために簡単にまとめて洗濯場に置いた。
そして棚からあらかじめアイロンをかけておいたシーツを二枚取り出し、簡単な掃除道具とそれを持って、二階の客室へ上がっていく。
日頃から暇さえあれば掃除をしているので、部屋の中は簡単に履き掃除をして気になるところを拭く程度でよかった。
ランプの燃料の確認をし、チェストの上にささやかな生け花をそえ、ベッドメイクに入る。
窓辺に干しておいた枕は、ふかふかの状態に戻って太陽のいい香りをさせていた。
セットするベッドはふたつ。どちらもアイアンの質素なベッドで、シーツをかけてしわを伸ばし、枕にカバーを結んで頭のほうへセットする。
そして薄手の毛布を隣の部屋から持ってきて、きちんと畳んで足元に置いた。
そうした仕事を手慣れた様子でこなしながら、リオはぼんやりと別のことを考えていた。
トマトソース…どうしようかな…
早めに瓶詰めにして…保存しないと…。
ダンのところに…持っていってみようかな…
会って…もらえるかな…。
そういえば…夕食はいらないって言ってたけど…
欲しいって言われたら…出してみようかな…。
全ての仕事を終えた頃には、窓の外には夕暮れが広がっていた。
リオは掃除道具を足元に下ろし、すとんとベッドに腰かける。
今日は…もう…会えないのかな…。
夕陽の見せる輝きがダンの金髪と重なり、リオはその姿を思い出して悲しくなった。
いつだって、「大丈夫だよ」って笑っていてくれた、ダン…。
痛くないわけがないのに…辛くないわけがないのに…。
「…ごめんね…」
ぽろりぽろりと、自然と涙が溢れてくる。
その涙さえ渇きを癒すのには必要だというように、リオは涙を拭う先から、指先を舐め取っていった。
涙にぶれる世界が、不安の渦を巻いてリオの気力を奪っていく。
やがて意識が朦朧とし、リオは自分で気づかぬうちに、気を失ってしまっていた。
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