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「うん、こんにちは。おはよう、の時間だけどね。リオちゃん」
「あっ…ごっ…ごめんなさい…っ!こんな朝早くから…」
「ううん、もう起きていたから大丈夫だよ」
絶えず優しい笑みを浮かべているロイドに、リオは自分の間抜けさが何だか恥ずかしくなり、目をそらしてコクンと頷いた。
そしてまた、沈黙が続く。
何か言いたそうにしているので、ロイドはリオが口を開くのを待っていたが、リオはオドオドと視線をさ迷わせるばかり。
言いづらいことを言い出せない、そんな雰囲気を感じとり、ロイドのほうから身を乗り出した。
「それで、今回はおいしいトマトソースのお土産はないのかな?」
顔を覗き込まれ、リオははっと顔を上げ、仰け反った。
その瞬間、瞳が金色に光ったが、リオ自身は気づいていない。
そしてロイドを避けるようにガタッと椅子ごとあとずさり、首振り人形のように頷いた。
「あっ…ごめんなさい!おれっ、今日は何も持ってきてなくて…!」
そう言って、本当に申し訳なさそうに何度も頭を下げるリオに、ロイドは少し困り笑いをした。
リオの頭をぽんぽんと撫で、立ち上がる。
「ふふ、冗談だよ。リオちゃんが会いに来てくれただけで嬉しい。…でも、たまにはあれ、食べたいかな」
そしてそう言いながら、さらに奥へ設置されている小部屋へ入り、そこからフルーツの入った籠を持って出てきた。
書きもの机とは別のテーブルの上を簡単に片づけ、そこで何やら作業を始める。
途端にリオは目を輝かせ、スツールの上でそわそわし始めた。
そんなリオを微笑ましく見つめ、ロイドは作業を進める。
この記憶喪失の少年にはじめて会ったのは、三ヵ月ほど前のことだった。
何年も会話していない弟が、夜中に唐突に訪れ、この傷だらけの少年を治療して欲しいと懇願してきたのだ。
ボロボロだがやけに身なりの良い、色白の美しい少年だった。
弟はすっかり彼に魅了されたようで、治療中も頑なにこの子の側を離れようとはせず、自分の治療もそこそこのまま、
朝方意識が戻り、会話が出来るまで、ずっと険しい顔で手を握り、飽きず少年を見つめていた。
ロイドの問いかけに、リオは、頷く、首を振る、短い単語だけの、簡単な仕草で応えた。
もっとも、声を出したのは自分の名前を訊かれた時だけで、その他は、
出身、知らない。年齢、わからない。親の名前、知らない。どうして傷を負ったのか、わからない──。
そうやって小さく首を振るばかりで、終いにはぽろぽろと泣きだしてしまったため、謎の少年についてあまり追求は出来なかった。
あれから三ヵ月。弟が紹介した知り合いの宿屋で働いているというが、相変わらず記憶を取り戻した様子は無い。
それ以降も幾度となくここを訪れる機会があったが、その時は決まって一人きりで、とてもやつれた顔をしてやってくる。
そして、今日も。少年にしては可愛らしい容姿に変わりないものの、黒髪はつやを失い、大きな目もどこか落ち窪んで、具合が良くないことを示している。
そんな時、彼は決まって“これ”を欲しがった。
すり鉢で大漁のベリーを潰し、酸味を紛らわすために甘い果実をいくつかブレンドしてそこに加える。
甘酸っぱい香りが部屋中に漂い、スツールの上でそわそわするリオの頬が紅潮してきた。
リオに見えるようにロイドはそっと体をずらし、さわやかな香りのするハーブを加える。
そして最後に八角形をした小瓶から冷たい水を注ぎ、グラスに移すと、それをリオに差し出した。
「はい、どうぞ。リオちゃん」
絞りたての新鮮なジュースを前に、リオは正直にごくんと喉を鳴らした。
そしてグラスを受け取り、その甘酸っぱい香りを身体いっぱいに吸い込む。
途端に顔色が明るくなり、口元に微笑みが浮かんだ。
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