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「い…いただき…ます」
「うん、どうぞ」
ロイドは椅子に腰かけ、リオがジュースを飲む様子を眺めた。
ひと口目はそっと口に含むだけ。味を噛みしめるようにして、ふた口目を口に運ぶ。
それからは息もつかずに一気に傾けた。よほど美味しかったのか、閉じた目じりに涙が浮かんで、頬を滑り落ちていく。
グラスが空になるまで飲み干すと、リオはほっと息をつき、ロイドを見上げた。
「あ…ありがとう…ございました。美味しかったです」
「うん。リオちゃんは本当にそれが好きだね」
微笑んで答えながら、ロイドは机の上のペンを取る。
“55%──効果なし。”
滑らかな動きで紙に書き込まれた文字に、リオは少しも気づいていなかった。
顔をリオのほうに向けたまま、器用に書きものを続けるロイドに、リオは恐る恐る身を乗り出す。
「ロイドさん…あの…」
「ん、なぁに?」
「あの…」
それだけ言って、空のグラスをぎゅっと握り、リオはうつむいてしまった。
しばらくグラスの表面を親指でなぞっているだけで、また何も言わない。
何か言いたいことがあるが、ためらっている。
出会った頃から、リオにはこういった一面があった。常に何かに怯え、あまり自分の意見を主張しようとせず、促されるまで自ら声を上げる事すら躊躇うような。
それは「引っ込み思案」などという言葉で片付けられる程度のものではない。何度も交流を重ねて、ようやくこうして口火を切れる程度にまでしたくらいだ。
一体どのような環境が、過去が、彼をこうさせているのか。
ロイドはふと瞼を落とし、ペンを置くと、再びこちらからきっかけを振った。
「ダンは元気にしてる?」
二人の共通の会話のひとつでもある、何気ない言葉だった。
しかし、リオはその問いかけにぴくっと顔を上げ、急に険しい表情をした。
ようやく色の戻った頬から、みるみるうちに血の気が引けていく。
それでも、今度はすぐに目線をそらそうとはせず、真っ直ぐにロイドを見据える。
ぎゅっと結んだ唇が、ようやく動いた。
「あの…っ…ダンのところに、行ってもらえませんか…?」
そして零れてきたのは、予想外の言葉だった。
ロイドは驚きに眉を上げ、首を傾げる。
「…うん?」
「ダンっ…具合が悪いらしくて…!お…おれ…なんにも出来ないけど…ロイドさんならって、思って…!」
リオはグラスを握りしめ、必死の様子で訴えた。
ダンは、リオの命の恩人だ。ダンに見つけられなかったら、リオは傷だらけのまま放置され、命はなかったことだろう。
それでも、今のリオの様子は、恩人の容体を心配して医者を呼びに来たわけではなく、
まるで自分が何か後ろめたいことをして、そのためにダンが傷つき、治療を必要としているような。
そしてこの告白するのはとても覚悟が要りようで、今、グラスを割らんとするばかりに震えている手が、代わりにその深刻さを物語っている。
ロイドは顎に指を添え、リオの様子を観察しながら、静かに答えた。
「うん。でもね、リオちゃん。俺はあの村には入れないんだよ。前にも言ったよね?」
普段の口調と変わりなく、柔らかだが、でもどこか突き放した印象のある言葉に、リオはびくっと震えた。
一度頷きかけるが、すぐにふるふると首を横に振り、また乞うようにロイドを見上げる。
「でも…でも…っ!お願いです!おれに出来ることがあるなら…何でもするから…っ!お願いします!」
必死の懇願のあまり、大きな目にじわりと涙が滲み、すぐに粒となって零れ落ちてきた。
興奮で少しだけ赤みをおびた頬に、次々と大粒の涙が落ちる。
愛らしい少年の憂う姿は、通常の人間なら男女問わず「何かしてやらねば」と行動を起こすであろう様子だったが、
ロイドは口を閉じたまま、静かに自分の頬に指を這わせた。
…さて、どうしたものか。
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