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06
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──や、
──やだ。
──だめ!
「──っ!!」
飛びかかる寸前、リオは咄嗟に体を引いた。
バランスを崩し、どすんと音を立てて尻餅をつく。
その音は階下まで響いたかもしれない。
しかしそんな心配もできないほど、リオは衝動を抑えるのに精一杯だった。
先刻まで抑えられていた渇きが、慣れた獲物を前にして、猛烈な勢いで湧き上がってくる。
焼けた喉に塩をすり込まれているようだ。
そして目の前には、コップになみなみ注いだ水がある。
意思とは反し、勝手に開こうとする口を押さえ、リオはその場に蹲った。
いかなくちゃ──離れなくちゃ!
早く…遠くに…!
リオは必死に唇を噛みしめ、立ち上がろうと足に力を入れた。
しかし、まるで全身が別人のもののように重たくて、思うように力が入らない。
ドクドクと鼓動が胸を叩き、息苦しさに涙が浮かんでくる。
それでもせめて後ずさりしようと、両手で口を塞ぎながら床を蹴った。
その時、
「…リオ…?」
擦れた、小さな声に呼びかけられ、リオはビクッとして顔を上げた。
ダンが、こちらを向いていた。
月明かりに照らされ、薄く開いた瞳が、甘いバター色に輝いている。
その視線はまだ完全に夢から覚めていないらしく、ぼんやりとリオを捉えていた。
「…リオ…だよね…?」
ぽつりとした問いかけに、リオは思わず首を振った。
返事しちゃ…だめ…!
だけど、だけど…。
「──…っ…ダン…ッ!」
堪えることが、できなかった。
苦しさに紛れ、喘ぐように答えた瞬間、ダンがはっと目を見開いた。
目の前でリオが泣いている。
ダンは自分の部屋で蹲るリオを見て、夢か現実かもわからないまま、気付けば飛び出していた。
「リオ!」
「来ちゃだめ!」
ベッドから転げ落ちた瞬間、震えた声に遮られ、ダンは動きを止めた。
今にも駆け寄って抱きしめてやりたいのに、リオはまるでダンに怯えるように、その場から逃げようとしている。
俯いたその目が金色に染まっていることに気付き、ダンははっと伸ばした手を引いた。
リオは今、空腹と戦っている。
それに気付き、ダンはベッドの側に腰を下ろした。
「あ…ごめん。もう三日経ったっけ?俺…ずっと寝てたみたいで…」
ダンの問いかけに、リオは返事をしなかった。
蹲ったままぶんぶんと首を横に振り、頑なに距離を取ろうともがいている。
「ね…リオ?どうしてここに居るの?もしかして…ずっと側に居てくれた?」
ダンは小声で問いかけるが、リオは首を横に振るばかりで、何も答えようとはしない。
さすがに様子がおかしい。三日経っていないなら、ここまで弱り切るなんてことないはずなのに。
「リオ?…大丈夫?」
さすがに心配になって、ダンはリオのほうへ身を乗り出した。
その途端、リオがビクンッと体を竦めた。
「だ…め…来ちゃだめ…っ!」
両手で口を塞ぎ、くもった声でリオが言う。
しかし、ダンはリオの側まで這って行き、リオの震える腕を掴み上げた。
そして抵抗しようとするリオの顔に触れ、自分の方へ向かせる。
満月のような瞳から、ボロボロと大粒の涙が零れ落ちた。
「あ…や…!だめだよ…っ!ダンッ…放して…!が…まん…できな…っ…!」
「いいよ…リオ。俺の血、飲んで」
「や…やだ…っ…もう…いやだよ…っ!こんなの…もうやだぁ…!」
リオはぼろぼろと泣きながら、弱々しくダンに抵抗した。
逃れようとしているのはわかるが、力が弱く、掴まれた腕を振ることすらままならない。
辛そうなリオの表情を見て、ダンはすっと唇を引き絞った。
「…リオ。俺、これからちょっとズルいことするよ。嫌いにならないでね」
そう言うなり、ダンはガリッと自分の唇に噛みついた。
それに気付き、リオがはっと顔を上げる。
ダンはリオの肩をしっかりと抱き寄せ、唇を近づけた。
「っや…ダン…っ…──!」
反射的に逃れようとした腰を、ぐいっと引き寄せる。
「…ぁ…ッ」
リオの小さな悲鳴は、鉄に似た味と、温かな感触に遮られた。
衝撃のあまり、身体がビクッと震え、硬直する。
最初は頑なに唇を結んでいたが、しかし次第にその甘い誘惑に耐えられなくなり、
リオはついに、自ら唇を開いた。
「…ふ…ふぁ…ン…ンン…」
気が狂いそうなほど求めていた甘美な香りと、圧し掛かる罪悪感。
滑らかな舌に唾液と血が絡み合い、これまでに味わったことのないゾクゾクとした感覚を味あわせる。
リオの溢す涙が、冷たい頬を伝ってダンの頬へも感じられた。
「ンッ…んぅ…ひゅ……」
震えながら僅かな抵抗をしていた手が、ゆっくりとダンを求めて首に回される。
それに促されるようにして、ダンはさらにきつくリオを抱き寄せた。
「ン…ふ…ふぇ…ん…ぁ…ンン…」
ダンの唇から溢れてくる血液を求めて、リオが貪るように縋りつく。
ダンはそっと目を開き、悲しそうに歪んだリオの顔を見つめた。
──何が、あったんだろう。
今まで、どんなに喉が渇いていた時だって、リオは直接家に訪ねて来るなんてこと一度もなかった。
三日に一度あのボロ小屋で会うこと以外、夜中は絶対に一緒に居ることを拒んだし、
ましてやこっちから言い出さないと血を飲んでくれないぐらい、人に噛みつくことを拒んでいたのに。
血を飲みに襲いに来たわけじゃないなら、一体どうして…──?
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