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「まぁ、適当に座んなよ」
部屋に通されて早々、ディックは今にも帰りたい気分になっていた。
通された部屋は、これでもかと飾りつけた大きな天蓋つきベッドと豪奢な調度品に囲まれた、薄暗い部屋だった。
窓はひとつ。こちらもふんだんな装飾がなされているが、夕日の射し込むガラスの向こうには、鉄格子がはまっているのが見える。
なるほど、あそこから俺が門番と話すのを、愉快に眺めていたってわけか…。
ディックは扉の脇に突っ立ったまま、軽やかに部屋の奥へ歩いていく人物を渋い顔で見つめた。
目の前の、下着も着けず、裸にシャツを羽織っただけの、世にもおぞましい格好をした少年の名は、ティム、ティモシー・ディズリー。正真正銘、血のつながったディックの弟だった。
成長期の骨ばった青白い肌に、猫のように光るブルーの瞳。整髪料で無理やり奇抜な青に染めた髪が、その存在の異様さを引き立てる。
「何か飲む?昨日さ、上等のワインが手に入ったんだけど…あぁ、そういえば客の趣味でお風呂に使っちゃったんだった」
「それを俺に報告してどうする」
「別に?出してあげようと思ったら、使っちゃったこと思い出しただけ」
空のワイングラスを振りながら、ティムはひとりだけ椅子に腰かけた。
わざとらしくすらりと組んだ足から、薄いシャツがはだけて落ちる。
「お前さぁ…下着ぐらい穿けよ」
「えぇ?だってすぐ脱ぐんだもん、ね?」
何が、ね?だ。今にもあごでもかち割って連れて帰りたい気分になったが、こいつは居たくてここに居るのだ。“口出し無用”の約束を思い出し、ぐっと唇を噛みしめる。
「…その、どうだ、最近」
とりあえず、世間話から始める。
「うん?毎日楽しいよ。この街にはボクを買おうって趣味のいい旦那様がたくさん居るから、幸い今のとこ、飽きることないし」
「…そうか」
聞くんじゃなかった。そもそも、コイツとまともに会話しようったって無駄だ。
色狂いの悩みの種──ダンにはじめてリオへの気持ちを聞いた時、真っ先に浮かんだのは、この弟の顔だった。
昔からどこか雰囲気のある子供だったが、親の見栄で、男女共学の一般学校ではなく、寄宿舎のあるパブリックスクールへ入れたが最後。
ものの数年でその色香でいたいけな男子生徒を惑わし、数々の表立って言えない偉業を打ち立てた。
終いには教師や近隣の教会のシスターにまで手を出し、老若男女問わず遊びまくった結果、ここに落ち着いた。
“ディズリー一味”最大の弱点ともいえるティムの存在は、多額の金によってもみ消され、今では、ディズリーの次男坊は世間から姿を消し、別の名で、裏社会でひっそりと名を上げている。
「…で、その“ディズリーの面汚し”に、何か用があってきたんでしょ?」
密かに打った舌打ちをめざとく見つけられ、ディックは顔を顰めた。
そういう顔が面白くてたまらないというように、ティムは両手を叩き、楽しげに笑い声をあげる。
「わかってるよ。そんなことないってわざとらしいお涙チョウダイしないあたり、ディックは好きだ」
「気持ち悪ぃ」
「そういうとこも大好きだよ、お兄ちゃん。その、よりによってこのボクに頼らなきゃいけない最高の屈辱っていうの?そういう顔とか、すごくソソる。ペンダントに入れて持ち歩きたいくらい」
「…いい加減にしろよ、ティム」
ディックは会話を切り、ポケットから出し入れしすぎて擦り切れた紙片を取りだした。
それを広げ、ティムに突き出す。描かれた似顔絵に、ティムは興味深そうに身を乗り出した。
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