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05
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突然現れた異形の存在に、その場はパニックに陥った。
それでも、ディックが冷静にダンをロイドのもとへ送り届けること、関係ない奴は事がおさまるまで家から一歩も出ず他言もしないことなどを命じ、大人たちは素直に少年の命に頷いた。
騒ぎを聞きつけたクリスの案内のもと、一行は“宿屋ウォルフガング”に場所を移すことにした。
リオは、かつては主人と向かい合って食事を取ったダイニングのテーブルの前で、三人の視線を浴びながら、小さく縮こまっている。
この場には、リオの雇い主であるクリス、恩人のダンの代理だというディックと、“シルヴァン”と名乗った吸血鬼の少年とが同席していた。
宿屋の外には、猟銃を持った村人たちがひっそりと待機している。悲鳴がひとつでも上がったら突入する、そう言われているが、突入したところでどうこうなる相手じゃないだろ、とディックは一人思っていた。
冷たい目をした怪物は、相変わらず、隣で戸惑うリオから目を離さない。
「…それで、」
口火を切ったのは、クリスだった。
リオのあまりの怯えように、何とかしてやらねばと思ったのだろう。
「リオはどうしてこの村に来た時、大怪我を負っていたんだい…?もしや君が、何か…」
「違う」
勇気を振り絞ったクリスの声を遮るように、低い声が轟いた。
実際にはほんの小さな一言だったはずなのに、まるで雷鳴のように、ショックを伴ってその声は落ちる。
「リオは、崖から落ちたんだ。屋敷から逃げる途中、ほんの少し手を離したすきに…」
「屋敷から、逃げる?」
「あぁ。この森の向こうの崖の上に、屋敷があるだろ。そこだよ」
それを聞き、リオはぶるっと震えた。
いつか、ロイドが話してくれた、崖の上に住む怪物の話が甦る――やっぱりあれは、バンパイアのことだったんだ。
「何だって、君たちは逃げ出したりしたんだい?」
「リオを守るためだ」
きっぱりとしたシルヴァンの言葉は、事情を掴むには簡潔すぎた。
恐る恐るという様子のクリスの質問を、ディックが引き継ぐ。
「もう少し詳しく教えてくれ。リオちゃんが何者で、何があって記憶を失い、大怪我をしてここに辿り着いたのか、それが知れなきゃ、あんたの素性も知れない」
ディックの問いかけに、シルヴァンは迷惑そうに眉を寄せた。
ちらりとリオを見下ろすと、リオは再びびくっと震える。
それでも、自分が何者なのか知りたいのか、その目は怯えながらもシルヴァンから離れなかった。
「…何から話せばいいかわからない」
「全てだ。俺らがあんたが信用に足る人物なのか見極めるための全て。…あんたらは人間の血を飲むというが、それは本当か?」
「あぁ」
「じゃあ、リオちゃんも、そうなんだな?」
「あぁ。だが、リオは俺達より“食事”を必要としない」
「…どういうことだ?」
「リオは半分人間だから」
その言葉に、場はざわめいた。
予想外の自分の正体に、リオは驚いてシルヴァンの横顔を見つめる。
言葉を失ったディックも、青ざめたクリスも、シルヴァンの彫像のような顔を見つめて固まっている。
「…どういうことだ?」
同じことをきくディックに、シルヴァンは苛立ったようだった。
リオはとっさにシルヴァンの手を握り、首を横に振る。
シルヴァンは仕方ないという様子でため息をつき、そして全てを、語り始めた。
*
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