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E p i s o d e . - D A N N - Ⅱ
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──鬱蒼と茂る森の中を、全速力で駆け抜ける。
奴だ──奴らがいる。奴らが縄張りの中に居る。
燃え盛るような嫌悪感と共に、興奮が疾走する体を駆け巡る。
──戦いだ。強いものと殺し合う。命をかけた戦いだ。身震いがする。
奴を見つけたら──立ち塞がる大樹を避ける──
喉笛に噛み付いて──転がり落ちた岩を飛び越える──
奴らの汚い血をまき散らして──坂を疾走する──
森中に、己の強さを知らしめてやる。
殺し合いだ。
殺し合いだ!
見えたぞ──奴だ──
こちらに気付いた──武器を持っている──
逃げたって無駄だ──ちっぽけなナイフごときでどうするつもりだ──
喉笛に噛み付いて──怯えた顔をしている──
真っ赤な血をまき散らして──戦慄く金色の瞳…溢れそうな涙…──
殺してやる──待てよ…──
あれは、リオじゃないか!
「──うわぁぁあっ!!」
悲鳴をあげ、ダン・チェスタートンは飛び起きた。
びっしょりとかいた汗が、強張った顎から胸に流れ落ちていく。
どくどくと脳が頭蓋骨を打っていた。頭痛がして、思わず右手を持ち上げる。
右手は大きく震えていた。同様に左手も。まるで今見た夢が現実だったかのように、体が恐れ戦いている。
なんなんだ、これ…。
衝撃から抜け出せないまま、ダンは辺りを見回した。薄暗い、甘い匂いのする部屋──これはきっと、兄ちゃんの部屋だ。
どうして俺はここに?何なんだろう、何があった?
思考を混乱させながら、ベッドからなんとか立ち上がった。
この部屋には灯りがなく、物も雑多に溢れていて、躓かずに進むのは無理だった。
金物の皿を蹴飛ばしたのか、けたたましい音を立て、それに気付いて小屋の住民が扉を開ける。
「ダン?起きたのか」
兄の声だった。ダンは目を回しながら、よろよろと明かりに向かって進もうとする。
「ダン、無理はするな。まだ寝ていろ。薬が効いてくるには、まだ時間が──」
「兄ちゃん…リオは…?リオは…」
よろよろと進んでくる弟を、ロイドは抱き止めた。
ずいぶん昔に抱き上げた時より、ずっと重く硬い体だ。一人前の男になった弟の腕を肩に回し、ロイドはダンをベッドへ運ぶ。
「リオちゃんは、まだ村から帰って来ない。お前も安静にしてないと、会う日がどんどん遅くなるぞ」
「俺…リオが好きなんだ…愛してるんだよ…俺、あの子を守りたいんだ…」
ロイドに返事をするでもなく、ダンはうわごとのように呟いた。
その双眸から、汗でないものが滴り落ちる。
ロイドはダンをベッドに寝かせ、強制的な眠りを誘うまじないをかけ始めた。
それでも、ダンは頑なに目を閉じようとはせず、息を荒げながらロイドにすがってくる。
「俺…リオのところに行かなくちゃ…リオは俺がいないと…!」
「…わかってるよ。だけどな、リオちゃんを生かせるのは、お前だけとは限らない」
「兄ちゃん…俺…リオを殺したくないよ…好きなんだ…殺したくない…」
呻くように言った弟の言葉に、ロイドははっと手を止めた。
死なせたくない、ではなく、殺したくない、だって…──?
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