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──翌日。
旅立つ二人を見送りに来たのは、従業員を失ったクリスと、ディックだけだった。
リオの決断を待つまでもなく、村はもちろんリオとシルヴァが早急に村から出て行くことを望んだ。最後にダンに一目、と願ったが、神聖な司祭様のもとにもう穢れは近寄らせないと非難をうけ、二人に別れを告げることを諦めざるをえなかった。
なるべく村人を怖がらせないよう、日の上がりきらない早朝を選び、こうしてささやかな見送りを受けている。
目を腫らし、外套を着たシルヴァに寄り添われたリオは、うつむいたまま自分のケープを脱ぎ始めた。
それを畳んで渡そうとしたところで、クリスが、静かに首を横に振る。
「リオ…それは君のために作ったものだ。君が嫌でなければ、持って行っておくれ」
静かな、優しい雇い主の言葉に、再び涙が零れ落ちた。
シルヴァがその涙を拭い、再びケープをリオの肩にかける。
その様子を見て、クリスはどこか寂しげに微笑んだ。
「元気で…元気でやるんだよ、リオ。きっと君なら、どこへ行っても大丈夫だから」
「はい…」
「ありがとう、リオ。君に出会えて、本当によかった」
優しいターコイズの瞳に朝日が射し込み、クリスの微笑みは本当に美しかった。
リオは涙を拭い、何度も何度も頭を下げて、教師であり親のようであった人に、最後の別れを告げた。
次にディックのほうを向くと、新聞紙に包まれたものをディックは差し出した。
「これ、餞別。赤いヤツが一番好きだろうけど、これも好きだったろ」
ニヤッと笑って渡されたのは、村のパン屋で売っていた砂糖をまぶした甘いパンと、食べごろのイチゴやブドウなどの果物だった。
正体がわかってからは、もう食べられないと思っていた。買っておいてくれたディックに感謝を伝え、改めて黙っていたことを詫びる。
ディックは「気にするな」などの優しい言葉はかけなかったが、黙ってリオの感謝を受け取り、一歩後ろに下がった。
改めて静かな早朝の村を見渡し、リオは旅立ちを決意する。
「あの…ダンは」
「まだ、ロイドさんのとこに居る。まだ目を覚まさないって聞いた。だけど…まぁ、ロイドさんに任せておけば大丈夫だろ。…このことは、後で俺から伝えておく」
「うん…ありがとう」
結局、ダンには手紙も何も残さないことにした。
これはシルヴァからの案だった。自分の存在はまるで夢の出来事だったかのように忘れさせてやれと。それが人間の未来に繋がると。
それはそうかもしれないと思った。結局自分はダンにもらうばかりで、何も返すことができなかったから、せめて静かにその存在を無くすことで、ダンの日常が取り戻せるかもしれない。
ありがとう。ごめんなさい。さようなら。
心の中で静かに呟き、リオは用意された馬車に乗り込んだ。
隣村から金で雇った何も知らない御者は、大きなあくびをひとつついて、二人が乗り込んだ馬車の扉を閉める。
ぴしゃん、と手綱が馬を打つ音がして、馬車は静かに走り始めた。
リオは窓から後ろを振り返りかけ、やめる。シルヴァに引っ張られたからだった。
「リオ」
シルヴァがリオの頭を胸に抱き、髪に唇を寄せる。
リオはシルヴァに寄りかかりながら、昨晩から止まらない涙をぐっと堪え、前を向いた。
森に囲まれた細い道を、馬車は静かに進んで行った。
ことことと揺られるうちに、リオの気持ちも徐々に整理がついていった。
自分も、今までの日々は、夢だと思って忘れよう。とてもいい夢を、幸せな夢を見た。ただそれだけのこと。
リオがシルヴァを見上げると、シルヴァもリオを見下ろした。金色の瞳に赤い髪がうつって、ゆらりと光る。
シルヴァは純粋な吸血鬼なだけあり、リオとは違い、太陽の光が苦手なようだった。
日差しが強くなるにつれ、その表情が徐々に険しくなっていく。フードつきの外套を着ているとはいえ、カーテンもない安馬車では、完全に日差しを避けるのは無理だ。
リオはケープを脱ぎ、せめて代わりに、窓のどこかへ引っかけようと立ち上がる。
すると、シルヴァがリオの体を抱きしめた。
どうしたのだろう。リオが振り返りかけたその時、首筋に、激痛が走った。
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