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09
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「あっ…!」
リオはかぁっと赤くなり、咄嗟に何も着ていない下半身をシャツで隠した。
しかし、娘は扉に手をかけてぼんやりと立ったまま、悲鳴をあげることも、逃げ出すようなこともしない。
その姿に、リオの脳裏にいつか見た夢が甦ってきた。
赤い、部屋…入ってくる少女…ガラス玉のような目…まるで人形のようで…怖くて、怖くて…
「…ぁ…いや…」
何が起こるかもわからないのに、奥歯がカチカチと震え始めた。
ぎゅっと腕に縋るリオを満足げに見下ろし、シルヴァは娘を手招きする。
まるで見えない糸に引っ張られるように、少女はかくん、かくん、と近づいてきた。
「あまり上物じゃないが、処女には違いない。久々の女の血だよ。嬉しいでしょ?」
シルヴァが声をかけるが、リオはがくがくと震えたまま少女から目を離せないでいた。
いや、いや。だめ。来ないで…!
少女がベッドに乗り上がり、四つん這いでこちらに近寄ってくる。
虚ろな目は遠くを見つめて、リオの手前に来ると、自ら服を脱いでその首をリオに晒した。
丸い肩に、膨らんだ胸。真っ白な、柔らかそうな肌…どくどくと脈が波打ち、甘い香りがむっと二人を包み込む。
いや──だめ!
咄嗟に顔を背けるも、シルヴァに頭を掴まれ逃げられなかった。
開きそうになる口を、目を瞑って必死に閉じようとする。少女の肩に顔を押し付けられても、リオは頑なに噛みつくことを拒んだ。
温かな感触が、甘い香りが、リオの食欲を一瞬で高揚させる。頭がおかしくなりそうだった。
それでも口を開かないリオに、シルヴァは眉を顰め、少女を引き離した。
そしてその手に、一本のナイフを握らせる。
リオが気付いて顔を上げた時、少女は、その白魚のような手で自らの首筋を切り裂いた。
ぶしゅっ、と吹きあがった血飛沫に、リオは呆然と、月明かりに舞う少女の身体を見つめていた。
躊躇うことなく自傷した少女は、びくんと一度跳ね、力なくリオの膝に横たわる。
そ…んな…
「ぁ…あっ…やぁぁぁっ───!!」
悲鳴をあげたリオの目の前が、途端にあの赤い部屋と重なった。
真っ赤な部屋。自害する少女。宿屋の娘と、あのドレスを着た令嬢とが重なり、物言わぬ骸が無数の少女に姿を変える。
赤い屋敷の扉の前で、腕を組みこちらを見るシルヴァ。そして見知らぬ男たち。
甘美な香り、耐えがたい味。両側から腕を掴まれる感覚、ベッドの上で何度も何度も快楽に溺れさせられる感覚。
様々な光景が雪崩のように一気に押し寄せて、リオは悲鳴をあげながら頭を抱えた。
廊下を疾走する自分。掴まれる腕。薄暗い部屋。地下室。見知らぬ小さな村。小さな家。知っているのに知らない、二人の笑顔。
嵐のような記憶の中で、金髪の少年が、あの小屋での夜のように手を伸ばしてくる。
ダン──…ダン、ダン!!
「い…いやっ…!怖いよぉ…!助けてっ…ダン…!!」
「早く、飲んで」
シルヴァが少女の身体を引きあげ、リオの口元に押し当てる。
しかしリオはぼろぼろと涙を零しながら、何かに助けを求めるのに精いっぱいだった。
シルヴァは苛立ち、吹き出る少女の血を口に含むと、リオの唇に口付けた。
舌を絡め、リオのパニックが収まるのを待つ。リオは爪を立ててもがいていたが、舌の上に広がる味に、徐々に落ち着きを取り戻していった。
久々の快楽に恐怖の波が押し流され、リオは夢中で、シルヴァの舌に縋りつく。
シルヴァは存分にリオの唇を味わい、口を放した。そして再び少女を引き寄せるが、それを見た途端、リオがはっと正気に戻る。
「…このまま血を飲まなければ、彼女の死は無駄になる」
耳元で囁かれ、リオはびくっとして少女を見つめた。
少女の身体はまだ温かかった。まるで一種の芸術かのような美しい遺骸の傷口から、止め処なくどくどくと血が溢れてくる。
自分がいくら抵抗したところで、彼女のもう命は戻らない。
リオは恐る恐る少女に手を伸ばし、震える唇をその傷口に当てた。
ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…。
せめて一滴でも無駄にしないよう、熱い血を必死に体に流し込む。
こんなにたくさんの食事を取るのはあまりに久しぶりで、いつしか罪悪感も忘れて夢中になっていた。
獲物を抱きしめ、必死に生を貪るリオの頭を撫で、シルヴァは満足そうに微笑む。
やがてリオが満足して口を離したところで、シルヴァはリオをベッドに押し倒した。
唇に残った血を恍惚と舐め、は、は、と短く喘ぐリオの目が、黒曜石のような黒に染まっていく。
快感と、罪悪感とが混ざり合ったリオのうっとりとした表情に、シルヴァはぞくっとした。
首に巻きつくタイを外し、シャツのボタンを開けていく。
「今度は、俺の番…──」
シルヴァが覆いかぶさってくるのを感じながら、リオはゆっくりと頭の上に置いた手を見上げた。
少女を抱きしめた時、べっとりと付いた血が、リオの手を赤く染めている。
こんな手で、もう誰かに助けを求めることなんかできない…
おれの居場所は…もうここにしかないんだ…
「リオ、好きって言って…」
「んぅっ…は…っ…んんっ…」
「早く。言って」
「す…き…」
「もっと言って…」
「好き…」
その言葉をシルヴァに言わされるたびに、言葉の鎖が、リオの心を雁字搦めにする。
好きだから、一緒に居る。
好きだから、どんなに酷いことをされても我慢できる。
シルヴァは食事をくれる。守ってくれる。
おれの、この世界で唯一の、好きな、ひと…。
そう思っていないと、心がばらばらに砕けそうだった
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The next episode → DICK Ⅲ.
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