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どいつもこいつも、頭の固い連中ばかりだ。一人として、リオの無事を祈る者なんて居ない。
もし本当にバンパイアが御者を殺したのなら、それはシルヴァに違いなかった。
ひ弱で小柄なリオが、種族が違うとはいえ大の男を殺すなんて無理に決まってる。
今、一番危険な位置に居るのは俺たちじゃない。リオなんだ。
「とにかく!俺はこれから司祭様のところに行ってくる。あの人なら奴らが攻めて来たって対抗する術を知っているはずだ。文句言ってる暇があったら、早いとこその人を埋葬してやれよ!」
ディックは吐き捨て、脱兎のごとく駆け出した。
途中までクリスが付いてきていたが、あいつらを監視してくれとのディックの要望を受けて、村へとって返す。
駆け抜ける森は、いつもと何ら変わりなく、まるで世界が無理やりリオの抜けた穴を塞ぎたがっているように見えた。
「ロイドさん!」
ディックが目的地にたどり着いた時、その人は、すでに小屋の外に出て来ていた。
森に張り巡らせた鳴子が知らせたのだろう。小さな小屋の前に立つ姿を見て、ディックはぎょっとした。
人当たりの良い長身の青年は、いつもの清潔なスータンではなく、無骨なロングコートを身にまとっていた。
腰に巻いたベルトの端々から、武器であろう、金属や銃などの形が見て取れる。
「“彼ら”が来たみたいだね」
冷静に言うその表情からは柔和な笑みが消え、どこか殺伐としたような、冷たい雰囲気が漂っていた。
「知ってたんですか…じゃあ、何で」
「うん、人数が少なかったみたいだから。囮に気を取られて、大勢の侵入を許しても困るからね」
まるで、少しの犠牲は仕方がない、とでも言うような口ぶりだった。
腹黒い人だとは思っていたが、ここまでとは。ディックは嘲笑気味に息を整えながら、事のあらましを説明する。
「リオちゃんを、迎えに来たって奴が居たんです。一晩話し合わせて、リオちゃんが自分でついていくって言うから、隣町から馬車を借りてマルス方面に見送りました。でも…その馬車が、さっき無人で帰ってきた。御者は殺されていました」
「リオちゃんは?」
「わかりません。とにかく、シルヴァンって奴に連れて行かれたんだと思います。村の奴らはダンがリオちゃんを連れてきたせいで“彼ら”の目が向いたって、騒いで収集がつきません。それで…」
「シルヴァン…あぁ、エルドレッドの坊やだね」
ぽつりと呟いたその目はどこか遠くを見ていて、もはや村人の姿など映っていないようだった。
それでも、ロイドはディックににこりと微笑み、一瞬覗かせた怒りをかき消すように続ける。
「大丈夫、どうやら事は上手い方向に進んだようだ。この村が襲われることは、もうないかもしれないよ」
「どういうことですか?」
「シルヴァンは、恐らく崖の上の屋敷を壊滅させたに違いない。そうでなければ、追っ手を恐れて、彼らのお膝元に一晩泊まるような真似なんてできないはずだ」
それを聞いて、ぞっとした。人間を殺して食うような化け物を、たった一人で全滅させるとは、一体あの少年はどれだけの力を持っているのか。
「まぁ、それでも彼らの一族はここに居たのが全員じゃないからね。時が経てば事を聞きつけた一族が真相を確かめにやって来るかもしれない。その時のために、村の人たちに準備をお願いしたほうがいいかもしれないね」
「ど…どうやって戦えっていうんですか?」
「うん。まぁ…ダンを置いていくから」
その答えに、ディックはぎょっとした。チェスタートンの息子とはいえ、確かダンには何の訓練もさせていないはずだ。
ロイドは一度小屋の中に戻り、あちこち切り張りされた分厚い本を持って出てくる。
「はい、これ。ここに彼らに対するあらゆる対処法が書いてあるから。まぁ、俺が戻るまでに彼らが攻めてくるようなことはないと思うけど、一応ね」
「ダンは…ダンはどうなっているんですか?」
「眠ってるよ、まだ。多分、二、三日は起きないと思うけど、起きたら、事の全てと俺が出ていったことを伝えて」
「ダンにどうやって戦えっていうんですか!」
噛みついたディックに、ロイドは泣きぼくろに皺を寄せて笑った。
まるでやかましい子犬をあやすような仕草でディックの頭を撫で、森に向かって歩き出す。
「それはあいつが本能でわかってると思うよ。ディック君、それじゃ、ダンと母さんをよろしくね」
ひらりとコートを翻し、決して森を出ることのなかった若者は、飄々と外の世界へ踏み出していった。
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The next episode → LIO Ⅳ.
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