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自分が人間じゃなくなったなんて、信じられなかった。信じたくなかった。
それでも、こんな異様な能力をまざまざと見せつけられては、もうこの身に何も起こらなかったなどと、しらを切り通すことはできない。
人間となんら変わりないように見える両手が、膝の上でぶるぶると震えている。
「父、ちゃん…俺、これから一体、どうしたらいいんだよ…俺、リオとこの村を出るって、決めたのに…」
震える手で顔を覆って呟き、ダンははっとする。
そうだ。俺が倒れてから、いったい何日経ったんだろう。
リオはお腹を空かせているに決まっている。早く村に戻って、血を飲ませてあげないと…。
『──ダン、次に会った時、お前はリオちゃんを殺してしまうよ』
その時、不意に頭の中に蘇った兄の声に、ダンはぞくりとして立ち上がった。
勢い余って、小ぶりなスツールが音を立てて倒れる。呼吸も荒く周りを見回しても、兄の姿どころか、気配もない。
その静寂の異様さに、ダンはようやく気がついた。
兄ちゃんが、いない。
兄、ロイドがこの小屋を空ける時。それは“彼ら”に関する、非常事態の時だけだ。
「に、兄ちゃん、兄ちゃん!」
慌てて森に駆け出ると、小屋の周りを兄を呼んで回った。
しかし、風にざわめく森が答えるだけで、その呼びかけに返事をする声はない。
まさか、まさか。リオの正体、兄ちゃんにバレた…?
いてもたってもいられず、ダンは村の方向へ向かって森の中を駆け出した。
裸足の足がざくざくと草を踏む音が、妙に大きく聞こえる。
そうだ──そうだ。
何ですぐ気づかなかったんだ。
あれが悪夢でなく、俺が狼人間になったことが事実なら、兄ちゃんはあの時、確かに言っていたじゃないか。
リオのこと、吸血鬼だって。
リオを最初に兄に診せた時、あらかたの治療が終わってから、怪しまれないようにダンは早々にリオを自宅に引き取っていた。
だからリオの回復力が人より早いことも、リオが血を欲してダンに襲いかかることも知らないはずだった。
たとえリオの人並み外れた美しさを怪しんでいたとしても、再び兄のもとを訪れた時も、「リオちゃんは元気にしてる?」と笑顔で訊いてくるぐらい、警戒も何もしていなかったはずだった。
しかし、ロイドは知っていた。リオの正体が、倒すべき仇敵だと。
血の繋がった唯一の兄が、己の想い人の胸を引き裂いてしまう──
最悪の事態が思い浮かび、ダンはますます強く地面を蹴りつけた。
殺さないで──兄ちゃん、リオを殺さないで!
その時、ターンと遠くで異音が響いた。間髪入れずに、同じ音がいくつも続く。
銃声だ。その音はダンの胸を強く叩いたが、足を緩めることなく、音のしたほうへ全速力で駆けていく。
近づくにつれ、火薬の匂いが漂ってきた。それに、知っている人間の匂いと、錆臭い血のにおい、そして、魂が拒絶反応を起こす、あの嫌なにおいも。
でも──違う。これ、リオの匂いじゃ、ない。
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