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「お久しぶりね。あなた…カナデと言ったかしら。まあ!そんなに汚れてっ。まさかその姿でアルファ厶様の前に出るのじゃないでしょうね?」
「お久しぶりです…。これは術と剣の稽古をしていたから…。部屋に戻ってちゃんと汚れは落とします」
「ふ~ん…。部屋ってどこの?」
「あ…アルの部屋です…」
「噂で聞いてまさかとは思ってたけど、あなたアルファ厶様と同じ部屋にいるのね…」
「同じ部屋というか…、アルの部屋の隣の小さな部屋を使わせてもらってます」
目からビームが出るんじゃないかと思うくらいに強く睨まれて、俺は少しだけ身を竦める。
「…ふん、まあいいわ。今夜はアルファ厶様は部屋に戻られないから。私の部屋に来て下さると約束したもの。あなた、アルファ厶様を止めるようないやらしい真似はしないでね?」
ライラは一方的にまくしたてると、ツンと顔を背けて離れて行った。
ーーええっ?何今の?なんであんなに俺を敵対視してんの?あ~、もしかしていつもアルと一緒に寝てるとかの噂でも流れてるのかなぁ。…まあ、噂じゃなくホントのことなんだけど。
自分の婚約者が、違う相手と毎日一緒にいるのは嫌だよなぁと思いながら、とぼとぼと歩いて部屋に戻る。
ーーそうか…、アルは今夜あの人の所へ…。
俺は一気に気持ちが落ちてしまい、部屋の前で大きな溜息を吐いて扉を押そうとしたら、いきなり向こう側へと開かれた。
「わあっ!」
バランスを崩して前へよろけた俺の身体を、アルファ厶が抱きとめる。
「カナ、遅いから心配したぞ?今日も頑張ってたんだな」
俺の頭を優しく撫でるアルファ厶を見上げる。俺を甘く見つめるアルファ厶を見ていたら、なぜか涙が出そうになって、慌てて硬い胸を押して離れた。
「ア、アルっ!俺、汗かいてるし汚れてるし臭いから、風呂に入ってくる!アルは先にご飯食べてていいよ」
俯いたまま一気にまくし立てると、身体を翻して風呂場へと駆け込んだ。
急いで服を脱ぎ捨てて風呂場へ入る。よく分からないドキドキで胸が苦しくなった俺は、壁際にある台に手をついて、深呼吸を繰り返した。
「カナ、そんなに慌てなくてもいい。俺はおまえの汚れも匂いも全く気にならないぞ」
バタンとドアの閉まる音がして、アルファ厶が風呂場に入って来た。
俺は俯いたまま、アルファ厶が俺に近づく気配を背中で感じる。
ふいに背中に素肌の温もりを感じて、ビクン!と肩が跳ねた。
「どうした、カナ?何かあったのか?」
「…大丈夫。練習のし過ぎで疲れただけ」
「なら一人で入るより俺が洗ってやった方がいいじゃないか。何でも遠慮せず俺に言えと言ってるだろう?」
「うん…ごめん…」
ーー本当は、アルの顔を見たら、ライラのことを考えて泣きそうになってしまうから。だから逃げて来たのに。ねぇ、アル。アルは婚約者がいるのに、なんで俺に優しいの?なんで俺に触れるの?アル…、今夜はライラの所へ、行くの…?
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