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「セリム、飛翔馬の手配は出来ているのか?」
「はい。シルヴィオ様の愛馬ペッツもお帰りをお待ちですよ」
「ペッツ…、あれも見事な黒馬だが、これの黒髪には及ばない…」
俺の髪が撫でられて、こそばゆくて微かに身震いをする。
ふ…と笑う気配の後に、髪を撫でていた手が、今度は頬を撫でる。
「その方、確かカナデと呼ばれてましたね。炎の国の王の后となられる方だとエン国の者が話しておりましたが…。このことを知ったら、エン国王が取り戻す為に月の国に攻め入って来るやもしれませんね」
「来るなら来ればいい。迎え撃ってやろうぞ。俺は欲しい物は必ず手に入れるのだ」
「念の為、王城に着いたらすぐに兵の手配をしておきましょう」
「頼んだぞ」
恐ろしい会話の間も、俺の頬を撫で続ける手に、嫌悪から背中がゾクリと粟立つ。
ーーアルに助けに来て欲しい。だけどそうなると、戦争になるってこと?そんな恐ろしいことは嫌だ。どうしよう…。俺はどうすればいい?
やっぱり月の国に入るまでに、俺は何とか逃げ出さなきゃいけない。
何度か意識は浮上するけど、身体は相変わらず動かせなくて、どうするかをグルグルと考えてるうちに、また深く眠ってしまった。
次に目覚めた時には、俺の意識はかなりハッキリとしていた。
相変わらず馬車の中で寝かされていたけど、シルヴィオ王も従者らしき人も誰もいない。それに、ゆっくりと指先に力を入れると、手も足も動かせるようになっている。
俺は手をついて上半身を起こし、軽い目眩を目を閉じてやり過ごした。数回深呼吸を繰り返して落ち着いてくると、再び目を開けて、窓にかかったカーテンの隙間から外の様子を窺った。
馬車の周りに二人の兵らしき人が立って見張っている。
馬車から数メートル離れた所に、シルヴィオ王と、たぶん一緒に馬車に乗っていたと思われる若い男、他10数人の兵が集まっていた。
その近くに数頭の大きな馬がいる。きっとあれらは、空を翔ける馬だろう。
もしかして、もう月の国に入ったのかもしれない。炎の国を出る前に何とか逃げ出したかったのに、俺は眠ってばかりで何も出来なかった。
でも諦めてはダメだ。この様子だと、まだ月の国入ったばかりみたいだ。それに今は傍にシルヴィオ王がいない。見張りが手薄な今がチャンスかもしれない。
そこまで考えて、床に足を下ろして立ち上がった。丸一日以上眠っていた筈だけど、ふらつくことも無くしっかりと立てる。目眩も起き上がったあの時だけで、もう大丈夫だ。
俺は、上着の内側に入っている短剣を確認すると、静かにドアを開ける。向こう側を向いて立つ男の腕を狙って人差し指と中指を向け、指先に意識を集中させた。
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