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* Scent.1 *
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……────。
立花の人生が狂い始めたのは、小学5年の進級と同時に行われた検査の日だった。
ベータ同士の両親から生まれた立花にくだされたのは、オメガ性の判定だった。
そんな訳がない、と両親はあらゆる医療機関で、立花の第2の性について徹底的に調べさせたのだ。
つい最近まで「親戚にアルファがいるから、もしかしたらアルファの可能性があるかもしれない」と、立花の母親は検査日が近付く度に嬉しそうに話していたのに。
立花もよく分からないまま、「アルファだといいね」と同調していた。
それだけで平和に過ごせていたのに。
授業参観を終えて人でごった返す廊下を抜け、立花は1人で帰宅した。
「……ただいま」
ひび割れて伏せられた写真立ては、玄関先で埃を被ったまま放置されている。
3人で撮った写真で自分がどんな顔をして笑っているかも、もう忘れてしまった。
思い出したら辛くなるから、なるべく見ないようにしていた。
他人の家へ踏み入れるようにして、立花はうっかり音を出さないように靴を脱いだ。
結婚を機に退職した母親の真綾は、その後生まれた立花にたくさんの愛情を注いでくれたのだ。
引っ込み思案だけれど人の言うことをよく聞く立花と、美人で優しい母親の真綾は理想的な親子だと、近所でも評判だった。
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