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* Scent.4 *
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この扉の向こうに……いる。
匂いや気配はなくとも、押しつけられた緊張感が、足をすくませる。
「ごめん! ちょっとどいてくれる?」
──えっ? もしかして話しかけられてる?
雑に積み上げられて、ぐらぐらと揺れている発泡スチロールの箱が、立花の知る言葉を放っている。
もちろん無機質なそれが独りでに動くことなんてあり得ない。
女性が1人で抱えるには大変だろう大きな箱を、立花は反対側から支えた。
「あの……? 大丈夫ですか? 1度床に置いたほうが……」
「それはだめ! 郁ちゃんに怒られるから!」
「ああ……すみません。えっと、どうしたら」
「そこの扉開けてよ。手が塞がっているんだから、そのくらい分かるでしょ」
親切心で声をかけたのに、踏みにじるようにきつく言い返されて、立花はぴくりと頬を動かした。
すぐに気を利かせられる訳でもないし、オメガだからとろくてすみませんね、と内心で言い訳めいた謝罪を呟いて、立花は発泡スチロールに触れていた手をぱっと離した。
立花が向かい側から支えていたおかげでバランスを保っていた箱は、奥手に少し傾く。
「……何を言い合っているのかな。……っ」
顔を見合わせると、お互いにはっと息を飲んだ。
涼風の一声が明らかに不機嫌さを募らせていて、立花は反射的に頭を下げた。
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