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* Scent.4 *
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始業までどこかで時間を潰す宛てもないので、早いとは思いつつカフェの裏手のドアへ入る。
タイムカードを押さないで、休憩室にいさせてもらおうと考えながら、奥の扉に手をかけようとしたときだった。
「包海さんって今日から出勤だったっけ」
「あ、うん。そうだったと思う。包海さん、ちょっと今月休み過ぎよねぇ」
「ある程度はしょうがないとは思うんだけど、ねぇ」
言い合った後に、くすくすと笑う声が扉越しに聞こえた。
どっと心臓が早鐘を打って、意識はせずとも呼吸は浅くなる。まだ間に合う。
すぐにでも立ち去って聞かなかったことにすればいい。
頭の中では冷静に懸命な判断が出来ているのに、足は地に縛られているみたいに動かない。
「この前長期で休暇取ったときだって、真白君が必死に頭下げて謝ってたのに。包海さん冷たいんじゃないかしら」
「あー、分かる。仕事は出来るけど、愛想がないっていうか。あれはちょっとかわいそうだったわ」
──相当嫌われてるな。
二葉との扱いに差をつけられていたことは、散々目にして分かっていたはずなのに、それを実際に口にされると心は臆病になってしまう。
あのときだって二葉には充分気を遣っていたつもりだった。
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