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* Scent.5 *
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「唯人」
目の前の山が「んー……」と低い声を発しながら、形を崩していく。
シーツの端からはみ出た足首が、枝葉を削ぎ落とされた細い幹みたく貧相だった。
「ん……どのくらい寝てた? 頭ずきずきして割れそ……」
「知る訳ない。鍵を返して」
「鍵? 何の?」
いちいち相手をしている余裕も時間もない。
立花は部屋の主の了承を得ずに、手当たり次第に目につくところのものを引っくり返しながら、形などとうに忘れてしまったものを探す。
唯人は昔から立花の行動には疑問を持たないし、むっとしたりもしない。
受け入れている、とは少し違うが、無関心という訳でもないようで。
立花の知る言葉だけでは、表せない何かは、大人になった今でも分からない。
「ねぇ……立花」
熱の抜けた青白い腕が、立花の胸に絡まる。
後ろから、唯人に抱き締められている。
掴んだら脆い音を立てて折れてしまいそうなほど、痩せて肉のなくなった手足が痛々しい。
温度のない、無機質にも思えてしまうそれが、だんだんと立花の腹へ降りてくる。
「名前をね、たくさん考えたよ。俺と立花の子が……ここにちゃんといるんだよね?」
「そんなの……もうとっくにいない」
あの夜から……立花が初めての発情期を迎えて、包海家の2人に抱かれた日から、唯人はおかしくなってしまった。
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