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* Scent.5 *
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立花が中学に上がったときの……8年も前の出来事を、まるで最近のことのように話す。
見た目も情緒も含めて、唯人の時間は止まってしまっている。
どちらかも分からない子は、未成熟の器官では育たずに、酷い腹痛とともに消えてしまった。
「嘘つき。立花は優しいから俺の子を殺したりしないよね?」
落ち着き払った声で、じくじくと心を抉られる。
そんなありきたりな言葉は慣れてしまったと思い込んでいたから、いっそう辛かった。
もう、この家には戻らない。
番の契約を結んで、立花は一生をアルファに捧げるのだ。
こつ、と指先に冷たい感触がぶつかる。
道具箱の1番奥に、探していた鍵は押し込まれていた。
唯人に見られないようにそれを回収すると、立花は身体にまとわりついた腕を剥がして、部屋を出た。
扉を越えて、唯人が追ってくる気配はなくて、煩かった心臓の音は平時に戻っていく。
ここにずっといて無駄に心を磨り減らすよりかは、仁居に飼われたほうがよほどいいのかもしれない。
望まないにしても、最低限の生活は保障されていて、発情期の問題も噛まれることで解決する。
涼風との未来が消えた今では、そうやって自分自身を慰めなければ、とても正気ではいられない。
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