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13-7.迫る闇(後半蓮夏side)
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そっとベッドの上に体を降ろされるのがわかった。仰向けになる僕の体の上に、布団を掛ける蓮夏。蓮夏はぼうっとする僕の傍に腰かけ、よしよしと言うように僕の頭を撫でる。
「疲れてるんだよ。さあ、今日はもうお休み」
蓮夏の手のひらは大きくてあったかい。
綺麗で、華奢過ぎなくて、僕はこの手が大好きだ。ふとキラリと光る蓮夏の薬指。僕は自らの手を上げて、自分も同じ指輪をしていることを確認する。
「はっか…」
「…どうしたの?」
蓮夏が僕を見て尋ねてくる。
……何だか胸の辺りがザワつくのを感じる。何かが僕たちのところまで迫ってきていて、僕はそれを予知して、吐き気が込み上げてくる。
〝『お前だけ幸せになるなんて…』〟
塗りつぶされた黒い歴史の記憶はほとんど嫌でも思い出したはずだ。
けれど、…頭に響くこの人物だけは、思い出せない。頭の隅に、チラチラとこちらを見下ろしてくる男の影が見える。だけど、…その人が誰だったのか、僕はまだ思い出せない。
……僕を見下ろす、恐ろしい目……。
『さつき、俺が今日からお前のお兄ちゃんなんだ。…だから、仲良くしような』
こちらに差し出される手を、僕はー
『おいで、さつき』
「…いや、嫌だ、いやだっ」
『………さつき』
「…!」
ー蓮夏sideー
夜、俺は咲太の泣き叫ぶ声で目を覚ました。
「…さくた?」
上半身をベッドから起こし、頭を両手で抑えて泣きながら声を上げている。
「咲太っ、どうしたんだっ?」
「いやああぁぁ」
咲太は首を横に何度も振り、髪を振り乱す。
「落ち着くんだ咲太っ!」
俺は震えながら喚く咲太の体を強く抱き締める。そして、あやすように頭を撫でる。
「………う、…うう……」
咲太はその後、ぽたぽたと多量の涙を瞳から流し、顔を両手で覆い俯き、小刻みに体を震わせた。
……この子の、全ての傷を俺は知らない。代わりにその傷を俺が受けることも、多少癒すことは出来ても、完全に癒すことは出来ない。俺は咲太の小さすぎる体を抱き締めながら、どうにも出来ない自分に腹を立て、眉を寄せ、唇を噛んだ。
俺はどこまでも無力。力になりたいのに、いつもこうして君のことを慰めているだけ。…俺は君からいろんなものを貰ったのに。
……許さない
俺はいつの間にか眠りについた頬に涙の跡を付ける咲太を抱きかかえながら、窓の外に浮かぶ大きな青白い月を睨むように見上げた。
「……誰かの見当はついている。」
君を絶対、あの頃の時代に飲み込ませない。
そして、君を必ず俺の手で守り通してみせる。
…そして君をこんなふうに恐怖で震え上がらせるそいつを、俺がこの手で、
殺してあげる。
すると、咲太の頭を撫でる俺の手を、眠っていた咲太の手がふいにぎゅ…っと優しく掴んだ。
「…それはダメだって言うのか?咲太」
尋ねる俺の問いに、眠る咲太は答えない。
俺は涙の跡のある咲太の柔らかな頬を指でゆっくりと辿るように触り、そして、咲太の頭を自分の胸にぐっと引き寄せた。
……愛しい。……君が愛しい。俺なんかより、誰よりも優しい君の心と、偽りのない透き通るような君の喜怒哀楽の声全てが、愛しい。
愛してる咲太、愛してる…
だから、
「君を守る為なら、俺は何だってやる」
愛しい君を胸に抱きながら、俺は今恐らく、君が恐怖するような表情をしているに違いない。本当に危険なのは俺なのかもしれない、なんて君にうっかり悟られないように、俺は君の目に分厚い目隠しをして、優しく髪を手で梳く。
月が満ちる日は近い。
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