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(はじめの一歩①②) ~Another Story~
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凪side
その日は、本当はもっと早くに帰るはずだったのに店長から備品の整理やら在庫の確認やらを任されて、結局、夜勤になっちゃって…まあ簡単に言うとすっごく疲れてたんだ。
だから家への帰り道もくたくたで、この日に限って重たい高校の教科書を呪いたくなるほどだった。
だけど、今となってはあの日、俺に残業を強いた店長に感謝する。
そのおかげで俺は…あの人と出会えたから_
「はぁ…」
早く帰りたい、でも帰ったら塾の宿題やらないと…
なんでこういう日に限って店長は俺を頼るんだよ…
他のパートさんに頼んでよ…
「……………?」
ふと、帰り道の途中にある駅前を通り掛かった時、ベンチに誰かが横たわっているのが見えた。
ただの酔っぱらい?こういうのはスルー…だよな。
見て見ぬふりをして、帰ろう。そう思って再び足を前に進める度、もしあの人が亡くなっていたら…もし助けを求めていたら…そう考えるのが止まらない。
「ちょっと見るだけ、だから」
そう、もしここで俺が無視したことで何かあったら嫌だから見るだけ!うん。
そうやって自分に言い訳して、ベンチに近づくと…
「………綺麗…」
とても顔の整った美形さんがそこに眠っていた。
そして…
「どちゃくそタイプ…」
俺はゲイというただでさえ世間一般から外れたやつの癖して、理想が高い。
白馬に乗ってそうなイケメンの王子様を好きになりたい…そう思って生きてきた。
その理想の王子像に、目の前の人はそっくりだった。
「…ってなに見とれてるんだよ!」
これ、もしかして…
「一目惚れ…?」
そう口にすると一気に体の熱が顔に集まるのがわかった。
でもそれと同時に…
「彼女、いるんだろうなぁ」
こんなかっこいい人、見逃すはずないもん。
_でも一瞬で恋して、一瞬で振られるのも、ほろ苦くて、ちょっぴり甘い、俺にお似合いの初恋かもしれない。
ってそんなのどうでも良くて…!!!
もしこの人が助けを求めてたら大変だから、起こすだけ。
べつにこの人の顔が見たいから起こすわけじゃないから!!
「あの…起きてください………起きてください…起きてください!」
体を揺すってもなかなか起きない、その人。
3回目の呼び掛けと揺すりでやっと、ゆっくり目を開け、こちらを見る。
その顔はまるで、触れたら居なくなる霧のように儚かった。
「………そう、た…?」
起き抜け1発、誰かを俺に重ねて名を呼ぶ。
まだ頭が起きていないのだろうかと、もう一度声をかけた。
「…?え、えっと…大丈夫ですか?」
その声にはっと目を大きくしたかと思うと、なんでか少し悲しげな顔をした。そう…まるで今にも泣きそうな。
「あ、ああ…すまなかった。ありがとう」
頭に手を当て、眉間に皺を寄せながらその人は僕に背を向けると電車の方へ歩いていった。
悲しいけど、ここでさよなら…か。
俺も踵を返し家へ帰ろうとした。
あれ?でも…
「…あの!そっち電車の方ですけど…もう、終電ありませんよ…?」
そう俺が声をかけると、驚いた様子で振り向き、また悩み出した。
「嘘だろ……ご親切にどうもありがとう、この近くにビジネスホテルか何かあったら教えて欲しいんだけど…」
…もしかしたらこれは、天が与えてくれたチャンスかもしれない。
_そんな馬鹿なと今なら思えるのに、この時の俺は、一目惚れのその人ともっと居たい…それしか考えられなかった。
「よ、良かったら…家、来ますか?」
こんな素っ頓狂な提案を口にしてしまった。
「は?……あ、いや…流石に見ず知らずの人の家に上がり込むほど困ってないから」
案の定、反応は冷たい。
でも…ここで別れたくない。初めて会ったんだ。こんなに頭の中を支配される人に。
俺の初恋、もうちょっと頑張らせてください。
「…それなら、単刀直入に言いますけど…貴方に一目惚れ、して…ここでさよならしたくないんです…」
気味悪がられたっていい、嫌われたっていい、いいから…俺は貴方に一目惚れした…その事実を知っていて欲しい。
「……ごめんだけど、俺、忘れられない人居るから」
申し訳なさそうに下を向きながらそう言ったその人は、その"忘れられない人"を思い出すかのように目を瞑り、少し、ほんの少し、笑った。
その顔に、さっきの言葉が引っかかった。
「さっきのそうたさん…ですか?」
「、うん。そうだよ」
やっぱり…。
この人は、俺と同じようで、違う。
同性の忘れられない人が居たんだ。
いいなぁ…そうたさん。
こんなかっこいい人の心を独り占めして。
いいなぁ…
_顔も知らない"そうた"に嫉妬して、だけど、そんなことで諦められるほど柔い初恋じゃなくて。
俺だって…
ううん。
俺に…この人を頂戴?そうたさん。
「さっき、俺のことそのそうたさんと間違えてましたよね…?俺ってそうたさんに似てるんですか?それなら…俺のこと、そうたさんって思ってください!"忘れられない"ってことは…付き合ってはない…ですよね、俺のこと身代わりでもいいので…!」
言いながらジリジリとその人に近寄る。
例え、俺の向こうに誰かを見ていたっていい。
あなたが見せる表情の全てが"そうたさん"の為でいい。
初めての恋なんだ、みっともないくらいしがみつかせてよ。
「……断るよ、身代わりなんて辛いだけだ。ただまあ…家には行かないが連絡先交換するか?」
こ、こ、こ、こ、こ…交換…?!!!!!
「はい…はいっ!!!!」
==
「三枝凪(サエグサ ナギ)くん…で、あってるかな?」
「あはい!凪って呼んでください!貴方は…高崎翔太さん。素敵な名前…」
俺が一目惚れしたその人の名前は、高崎翔太さん。
名前でさえかっこいいと感じてしまう。
「はは…ありがとう。君、可愛いんだから帰り気をつけなよ、じゃ」
_翔太さんは帰り際に爆弾を落とした。
かわ…かわっ?!!!!!
え、ぼ、ぼ、僕が可愛い…??
一瞬で顔は真っ赤に染まり、体温が上昇する。
だけどそんな間にも翔太さんは歩いていってしまう。
この気持ちを伝えたくて、
拙い言葉だけど、伝えたくて。
翔太さんの背中に向かって叫んだ。
「あのっ!!!…え、っと…可愛いって言ってくれてありがとうございます!高崎さんもかっこいいですよ!!!」
心からの言葉。
その言葉に翔太さんは足を止め、
「ありがとう」
そう一言、落としたあとこちらを振り向くこともせず暗闇へと歩いていった。
その姿を見届けたあと、俺も帰ろうと家への帰路をたどる。
ブルーライトが光る画面に新しく追加された連絡先。
それが好きな人と考えるだけで頬が緩む。
「あっ!!そうだ…!」
いいことを思いつき、それを実行するために疲れていたことも忘れて早足で家に帰ると、愛犬のプードル"めろん"と一緒の自撮りを1番上のあの人に送る。
文面も添えて。
「大好きです!翔太さん!!!…でいい、かな。………よしっ送信っと!!!」
送って数分で既読がついたから、もうホテルに着いていたんだろう。
その後、返信は無かったけど、自分の気持ちを伝えられた満足感で俺はすっかり寝落ちてしまった。
==
ちゅんちゅんと雀が鳴く。
まだぼんやりする頭の中で、そういえばアラームもかけずに寝たんだと思い出した。
「…今日は、土曜か。学校は無いしバイトも午後からだし…もうちょっと寝よっかな…」
そう思って起きられるようにと、スマホのアラームをかけようと画面を開いた時、未読の通知があることに気づいた。
「だれ…?」
アプリを開いてみるとそこには
高崎翔太
の文字。
「……うぇえええ?!!!!!!!」
え、ほんと?え、返信くれた、本当に?え?
震える手でトーク画面を開く。
"ありがとう、トイプードル可愛いね"
そんな、なんでもないような、たった1文だった。
それだけが、こんなにも嬉しい。
これが…
「恋、なんだ…」
_初恋は実らないから美しい。
なんてよく言ったものだけど、
美しくなくたって、
泥臭くたって、
"それ"は美しい。
「覚悟しててくださいね?翔太さん。俺、ガツガツ行くんで!!!」
_果たしてこの恋の行く末は…
「そんなんハッピーエンドに決まってるでしょ!」
ちょ、凪くん入ってこないd((
〜続〜
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