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金色の瞳のチェシャ猫のお話12
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腰が痛い。腰痛持ちではないのに、普段使わない腰を酷使しているから、筋肉痛だろうか。 精進がこんなところにも足らないのだろうか…いや、これは鍛錬と言った方が良いだろうかと、天花は考えていた。
「住職」
「はい」
「本当ですか?」
「はい」
天花は大きく頷いている。
「本当に良いんですね?」
「はい」
深く頷いた。
「では、僕は実家に帰らせて頂きますよ?」
「はい」
「本当に良いんですね」
「…はい」
念押しされて、問いただされる。秋の彼岸が終わり、冬の準備に差し掛かる頃。明雪と花風へ、一週間程度の暇の約束を半年以上前からしていた。
今の時期というのは、ここから冬の支度や年末年始の準備等で追われるため、一週間の休みをあげられるのが今しかなかったのだ。
2人は、今は修行の身だが、年に2回は親元に帰らせてあげたいと、天花の思いからそうしているのだ。
「半年前からの約束でしたので、どうぞ気兼ねなく」
明雪と花風は、本堂に正座してじっと天花を見ていた。
「…本当に、大丈夫なんですね?」
普段、懸命に奉公してくれている3人のうち2人がいなくなるということは、全てを天花がこなさなければならないという事だ。
「はい」
天花は頷いた。
「しかも、六花は盲腸で入院中ですよ?」
そうなのだ。
六花は、体調不良を訴えて病院へ行かせたところ、虫垂炎で即入院が必要との事で、今は入院中だ。という事は、本堂を守るのは天花一人になる。
「…はい」
天花は頷いた。
「やめましょう住職」
沈黙を守っていた明雪が、天花に言った。
「住職だけを置いて、お休みなんて出来ません!」
彼岸の法事があった際は、確かに他に援助を頼んだが、今回は一週間もある。
昼夜問わず電話がかかってきたり、檀家の対応をしたり、寺社の日々の勤めをこなしながら過ごさなければならない。
「いいえ…ご両親から預からせて頂いている身である、私は貴方達を年に2回帰省させる義務があります」
日々、しっかりと修行をしている姿を見せる事で親孝行になると天花は思う。
人はいつ死ぬか分からない。それは天花はよく知っている。
夜中3時に電話がかかってきて、葬儀の手続きの相談をされる事もあるのだ。
「お2人には、とても助けて頂いています。…これは、私からお2人への御礼でもあるのです」
だから、気兼ねなく帰省してゆっくり休んでほしいと思う。
「…ですが…」
2人の心残りは、根深い。
「私なら、大丈夫です」
天花はニコリと微笑んだ。
「最近、猫を一匹飼いまして…」
2人は天花の突拍子もない話に、ぽかんと口を開けていた。
「??」
「猫の手を借りれる事になったので、問題ありません」
2人は、まだぽかんとしていた。そのとき、ガタッと天井裏で音がした。
「??」
音の大きさに、明雪が上を見上げた。
「ああ…猫かもしれません」
住職は、穏やかだった。
「住職」
花風はいう。
「ずっと、疑問に思っていたのですが、1つ質問してもよろしいでしょうか?」
「はい」
花風は、意を決したようにいう。
「その猫は、金色の目をしていますか?」
天花はじっと花風を見つめた。
「ええ…皆さんに、ご迷惑を御かけしていると思いますが…」
天花が、説明しようとしたその時だった。
「遅くなりました」
そう言って、本堂に現れたのは、坊主頭の青年だった。
「…」
2人は、その青年を見た。身長は、160センチ程度で、顔立ちは中性的で整っていた。肌は磁器のように白く美しい。女性と見紛うほど、目鼻立ちはしっかりしており。瞳は黒く澄んでいる。花のような甘い香りを纏い、フワリと明雪の隣に座って頭を下げる。
「天花住職のお手伝いに参りました」
顔を上げて、背筋を伸ばす、その姿勢はしなやかな竹のようだった。
「明雪さんと花風さんが、お留守にされるという事で、天花住職からご依頼いただきまして、参上致しました」
ニコリと微笑む様は、可憐だった思わず、明雪と花風は見とれていた。こんなに美しい顔立ちの僧侶を見た事が無い。2人が推測するに、おそらく年は同じ年か少し年上のような雰囲気があった。
「天花住職とはご縁がありまして、この度は住職のお手伝いをさせて頂ける事になり、嬉しく思います」
まるで、寒椿のような花が綻ぶように微笑むその様は美しく、紅をさしたかのような唇は柔らかそうに動く。柔和な表情と、鈴が鳴ったような声だった。
「あっ!…申し遅れましたが、僕は八朔(はっさく)と申します」
その美しい僧は、八朔と名乗った。
「明雪さん、花風さん…気兼ねなく、暇を御過ごしください」
八朔は微笑んだ。どきりとするほど美しい魅力を持つ笑顔に、2人は顔を赤くした。
「え…は、はい…ありがとうございます」
明雪が、名前を呼ばれどぎまぎしていた。
「有り難うございます…」
花風は視線をそらしていた。
「では、天花住職…お世話になります」
八朔は、頭を下げた。
「あぁ…こ、こちらこそ、よろしく御願い致します」
天花はぎこちなく頭を下げた。明雪と花風は、日頃奉公している寺社を離れた。寺には、八朔と天花の2人だけになる。
「…秋のお彼岸が終わりましたので、しばらくは落ち着くと思ったのですが、やはり天花住職は人気があるようですね」
天花に休息は無い。
「ええ…冬の準備の連絡をしたので、その打ち合わせをしてきます。やることは、大体メモに描きましたので、こちらを参考にしてください。」
天花は、メモを八朔に渡した。
「かしこまりました」
と、涼やかな声で八朔は頷いた。長く黒い睫毛が縁取る大きい瞳は、儚げだ。
「では、その間よろしく御願い致します」
天花は、門の近くで待機していた老人のところへ小走りで行った。
「…」
残された八朔は、メモを開いて内容を確認する。一通り、全てに目を通してから再びたたんでポケットに入れた。
「…さて、やりますか」
八朔は、手始めに掃除から始めた。
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