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金色の瞳のチェシャ猫のお話24
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「拝見してもよろしいですか?」
「ええ…まぁ…はい…」
天花は歯切れが悪い。玉屑は、薄暗い本堂の中へ入る。
「…なるほど」
「あの…」
天花は背後から、声をかける。
「玉屑さん…早く、御逃げになられた方がよろしいんじゃないでしょうか?」
天花は出口の無い本堂に入った玉屑に声をかけた。
「何をいうんですか?」
虚をつかれた声は少し動揺が見られる。
「だって…貴方、窃盗団の方でしょ?」
玉屑に成りすましているつもりだろうが、チェシャはそんなに礼儀正しくはない。逆に違和感だ。
「聞いています。うちの玉屑と八朔が、害獣駆除をすると」
チェシャとミケは、この寺が窃盗団に狙われていて宝が盗まれそうになっていると教えてくれた。それを2人は『害獣駆除』と言ってた。2人の主張する害獣駆除の大体は終わったのだろうが、残党がこうして現れたのだと、天花は思った。
「今、何もとらずにここを去れば、彼等も危害は加えない事でしょう」
天花は、あえて告げ口をするようなことはしないから、彼等に見つかる前に早く逃げてほしいと思った。
「…」
「住職」
「はい?」
天花を呼ぶその声は、玉屑のものではなかった。
女性の声だった。くるりと振り向くと、玉屑は天花に銃を向けていた。初めて目の当たりにするものだが、銃だという事は天花にも分かった。
例え、モデルガンの類いだったとしても、見分ける事が出来ないので、とりあえず両手を上げて、悪意も抵抗もしない事だけはアピールしておく。
「…この寺にあるお宝を渡してください」
「はいぃ??!」
お宝?
なにそれ…
「とぼけないでください」
ゆっくりと近づいてくるが、天花は微動だにしない。
「いや…そんなこと言われると思わなかったんで…」
天花は目を白黒させた。
この寺にお宝なんてない…強いて言うなら、天花の部屋にある壷?
…でも、あれば結婚式の引き出物でもらったもので、
大した価値は無い。それっぽく飾ってあるだけ。
有馬焼きだか、伊万里焼きだか、明石焼だか…なんだかも天花は分かっていない。けれど、彼女は至って真剣にこちらに近づいていて、天花の半歩手前まで歩みを進めていた。
「アイツらが帰ってくる前に、早く出しなさい」
その声は、40代くらいの中年の女性だった。この距離で彼女を見れば何となく分かる。感情には怯えが交じっている。2人の与えた狂気の印象は、相当トラウマだったのだろう。
「そういわれても…この寺に宝はありません」
価値のありそうなものは、何一つ無い。
「じゃあ、秘仏を出しなさい」
「秘仏???」
秘仏…秘仏ねぇ
と、天花は考える。
「じゃあ、私を連れていってください」
「は?」
天花の申し出に女は眉間に皺を寄せた。
「なにいって…」
「ここの秘仏は、つまりは私の事なのです」
女は困惑した。
「恐れながら…私は、大阿闍梨と呼ばれております」
だいヤじゃり?
なにそれ?という表情をしていた。
「私は、ここの住職になる前に特別な修行を行いました。かなり過酷な修行故、満行した者があまりいない事から檀家さんからは『秘仏』なんて呼ぶ人もいるくらいでして…」
かなり過酷な修行で、その行を満行したものだけが、与えられる称号のことだ。周囲では天花のことを『生きながらの仏様』とか『生き仏』とか『秘仏だ』なんて言って、天花をみるとありがたがる檀家さんが多いのだ。そんな噂を真に受けたのだろう。
「…」
瞠目したまま、言葉を失っていた。
つまり…
「この寺の宝は、何もありません。私を仏様と同等に仰って頂けて、有り難い限りでございますが、私は一介僧侶でございます」
天花の声は穏やかだ。諭すように、彼女に身を引くように説得する。
「恐れながら、仏とはほど遠い存在でございます。撃たれれば死にますし、切り裂けば血が出ます」
チェシャの単純な誘惑にだって、すぐに動揺するようなしょうもない男である。
「どうかウチの愛猫に見つかる前に、御引き取り願いますようお願い申し上げます」
そういって、天花は合掌すると頭を下げた。
「…」
天花はゆっくりと頭を上げる。女性は冷たい目で天花を見ていた。
「なにそれ。下らない」
人の価値は人それぞれだ。
「振り回されて…馬鹿じゃない」
出来れば、改心される事を進めたい所だ。
女は、ふっとロウソクの炎を消して、それを足下に置いた。
「!!?」
暗くなった瞬間、女の姿を見逃した刹那、天花の身体は反転して、外を向いていた。
「何…してんの?」
冷たい声が暗闇から聞こえる。小さい光りが2つ揺らいでいる。
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