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第1章–3 おつかいへ
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「県庁って駅の側でいいんですよね?」
公用車に乗り込もうとしてふと、田口が顔を上げる。
それを横目に見て、保住は苦笑いだ。
「おれが運転する」
「いや。そういうつもりではなくて。教えてもらえれば……」
「そういった面倒ごとは嫌いだ」
保住はそう言うと、運転席に回り込む。
「係長」
田口は弱った顔をして、しぶしぶと助手席に座った。
「すみません」
「田口……本気で真面目過ぎだって。そういうの疲れないのか?」
「疲れません。これがおれです」
「ふうん」
年が近いせいなのだろうか。
普通、上司にこんな口の利き方はしないはずなのに。
田口は、黙り込む。
ダメだ。
保住と一緒にいると、何だかペースが乱れる。
上司に運転をさせて、更にその人に無駄口を叩くなんて。
バカだ。
反省。
自分が嫌になってきた。
「そんな顔するな」
走り出した車の中で、保住は微笑を浮かべた。
いつもは無表情で感情が表に出にくい田口だが、会って半日の人に自分の気持ちの揺れ動きを読まれることは滅多にない。
今日は、どきっとすることばかりだ。
「なんで分かったの?って顔をしているぞ」
信号で止まった車。
保住は、ルームミラーで田口を見た。
視線が合うと、なんだか気恥ずかしい。
田口は、視線をそらして窓の外に視線を向けた。
「……昔から、何を考えているのか分からないとよく言われます。表情がないから面白味のない男だって。それなのに。どうして分かるんです?おれの気持ち」
「そうだな。まあ、会話の流れと、黙り込む仕草を見ていれば、不本意なのだろうとか、そういう気持ちの類いは想像が付くな」
「想像ですか」
「それ以上はよく分からないな。まだ出会って数時間の間柄だ。想像をするのにも、情報が足りないな」
「想像をするのに、ですか」
「そう。その場の雰囲気で分かるものだけでは不確か。足りない部分は、その人の人と成りや性格、思考の傾向を見て想像できるものもあるからな」
「それって探偵みたいですね」
「そうかな?社会人としてやっていくには、結構、役に立つんだけどな~……」
田口は、苦笑する。
この人。
自分よりも面倒な人っぽけど。
興味深い。
そんな話をしていると、県庁に到着する。
県庁は、駅の近くにあった。
「ここには、ちょくちょく呼び出される。覚えておいて。一人で来ることもあるぞ」
「了解です」
田口は、書類を抱えて保住にくっついていった。
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