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第1章–4 目が回る
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「と、言うことで。ぜひお願いしたいのですが」
「お断りさせてもらいます」
県担当者の説明に、保住は即答。
田口は、目が点だ。
県担当者の長嶋も、ぽかんとしていた。
「だから、あの」
長嶋は、やっとことの成り行きを飲み込んだのか。
むっとした顔をしていた。
驚きの後は、不愉快な気持ちになったのだろう。
40そこそこの七三分けの男は、持っていたボールペンをくるりと回す。
これは、わざとだろう。
「自分の気持ちを知れ」と、言わんばかりの明らかな感情表出だ。
しかし保住は、真面目な顔で書類を彼の目の前に返す。
「申し訳ありませんね。とても素晴らしい企画へのお誘いですが、今年度、事業が重なっていて余力がないのですよ。次年度は、こういったお申し出をいただけるなら、前年度中にお願いしたいものです。誠に残念です。それでは、失礼致します」
そう言うと保住は、立ち上がった。
「係長」
田口も頭を下げてから、保住に従って部屋を出る。
長嶋は、細い眉毛をこれでもかとひそめていた。
いくら県と言えども、強引に事業を押し付けることは出来ないということか。
まさか、即答で断ってくるとは思っていなかったらしい。
他の策を講じていなかったようだ。
ぐうの音も出ない。
「長嶋さん、今後ともどうぞよろしくお願い致します」
保住は、朗らかに笑うと会議室を出た。
たった5分の邂逅。
だが、足を運んだ事に意味があるのだろう。
電話で断るのでは、しつこくされるのだろうが。
きちんと話を聞いてから、お断りしたのだ。
これ以上は、長嶋も口出しは出来ないだろう。
スマートな仕事裁きだ。
庁舎を出て駐車場に向かう途中、田口は保住に視線を落とす。
「すごいですね。県に対していいんですか?あんな振る舞いで」
「いい。別に構わない。県は市の上部機関ではない。局長か課長に苦情が入るだろうが、この件は断るという話で詰めてきた。問題ない」
「そうですか」
ならいいですけど。
田口は、心配になった。
案の定。
事務所に帰ると、課長の佐久間に声をかけられる。
「ほうちゃん、電話来ていたよ」
「課長」
「局長のところにね」
佐久間は、小柄な人のいい笑顔を見せる。
「予測通りですね。単純なお人だ」
眉の細い長嶋の顔が思い出される。
「想定内。問題ないそうだ」
これは局長の言葉、ということか。
保住は、苦笑した。
「ありがとうございます」
「ご苦労さま」
席に戻る佐久間を見送ってから、田口たちは、席に戻った。
これが、文化課振興係。
付いていけるだろうか。
今までとは、全く違ったやり方に目が回りそうだが、そんなことは言ってられないのだ。
早く理解しなければならない。
そう思った。
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