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第1章–6 お前、おれが嫌いだろ
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「それより」
「なに?」
「自然な流れで係長に運転していただいていますが、すみません。まったくダメ部下です」
「またその話題?」
保住は笑い、そして続ける。
「行き先、お前に言ってないし。運転されても困る」
「どうして行き先を教えてくれないんですか。確かにおれは、徒歩で通勤していますが、運転が苦手な訳ではないんですからね」
「そうきたか!おれのこと、信用してもらえないんですか的な卑屈発言」
「では、どう言う意図があるのですか?」
からかわれているみたいで面白くない。
上司に減らず口を叩くタイプではないはずなのに。
保住といると、ガードが緩くなる。
あの緩い感じに自分もされてしまうのが怖い。
いつもの自分みたいじゃないみたいだ。
そう思う。
「え?おれが運転好きなだけ」
「係長!」
「怒るなよ。本当のことなのに……」
田口は、黙り込む。
この一か月。
とても騒がしくて、心が落ち着かない。
入庁して初めての事ばかり。
いつも同じことが心の安寧をくれる。
そう信じているから。
変化に弱いのだ。
保住といると、そんなぺースが乱れまくり。
着いて行こうとすればするほど、精神的に疲弊していく気がする。
「お前、おれが嫌いだろう?」
ふと保住が発する言葉に動きが止まる。
多分、図星。
「ち、違います」
「あー、やっぱり図星!」
保住は、愉快そうに笑う。
「な、なんでそんなことを言うのですか」
「だって、すっごく嫌そうな顔ばかりだ」
「そうでしょうか」
感情が表情に出ない男。
ずっと欠点だと思っていた。
何を考えているか分からないと、よく言われていたからだ。
しかし、社会人になると、それは長所でもあると気がついた。
嫌な人と話をしても無表情でいられると言うのは、使えるものだ。
市役所で結構使いこなしていたはずなのに。
なぜ分かるのだ。
雰囲気で分かると言っていた。
怖い。
ある意味、感情を読まれないというのは、田口にとったら、他人との境界線、言わばセーフティ機能である。
もしかしたら、保住以外の人にも自分の感情はダダ漏れなのだろうか?
不安。
自分一人、気が付かなかっただけなのか?
怖い。
田口は、黙り込んだ。
そんな彼を横目に見て、保住は苦笑する。
「そんな不安そうな顔をするな。お前の気持ち、分かる人間はそうそういないぞ。安心しろ」
「係長」
「すまない、立ち入った話だったな」
「いいえ」
上司の前でいい部下を取り繕えないなんて。
お粗末。
田口は、落ち込んだ。
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