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第2章–8 上司としての器
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ハモンドオルガン奏者と、女性のヴォーカルが古き良き音楽を奏でる。
それを聞いている子供からお年寄りまでの市民は、ニコニコして身体を揺らす。
「誰のためのものか」
「市民の、星野一郎を好きな人や、まだ知らない人たちのためです」
田口の瞳の色は、いつもの彼だ。
凛としたまっすぐな目。
曇りのない純粋な色。
田口には、まだまだ経験しなければならないことがある。
そして。
自分もだ。
今まで前線部隊で戦ってきた自分は、何一つ苦労することがなかった。
自分の能力を思う存分活かせたからだ。
だから、そうそうに管理者としての能力を買われた。
しかし、実務とはまた別の話だった。
係長とは、ずいぶん特殊な立ち位置だ。
新しいことの連続で、苦労をしているのは確かだ。
彼のおかげでまた、自分は経験させてもらった。
人を育てる難しさ。
管理職としての立ち位置、振る舞いについては、課長の佐久間が色々教えてくれる。
佐久間には、本気で世話になっている。
こんな若輩者の係長なんて、鼻に付くはずだ。
だが、彼もまた、保住を育ててくれている。
そんな気持ちが分かるからこそ、田口にも伝えたいことがあるのだ。
「少しは見えるか」
「見えます。イメージとして理解しました。今まで物事をイメージとして捉えるという方法が自分にはなかったので、少し戸惑っていますけど……」
「やれるか?」
「書きます」
田口は、頷き立ち上がる。
「夕方までに書き直します」
「期待している」
資料をかき集めて、田口は静かに会議室を出ていった。
それを見送って、保住は椅子に持たれた。
「疲れた……」
なんでも飄々とこなしているようにみられがちだが、実はそうでもない。
打たれ弱いのは打たれ弱いのだ。
じっとしていると、扉が開いた。
「サボっているな」
ドス黒い重低音に、苦笑いをして顔を上げる。
よく部下の動きを見ているものだ。
自分のところで一悶着があって、自分と田口がここで揉めていた事も把握しているのだろう。
扉を隔てている部屋にいる癖に。
部下の動向には目を光らせている嫌な奴だと、保住は思う。
「少しぐらい勘弁してくださいよ。澤井さん」
保住の言葉に澤井は、ニコリともせずに口をゆがませる。
「局長だ」
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