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第2章–15 父という人
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「なぜ笑う」
「いえ。みんな、噂だって言っていましたから、聞きにくいことなのかなって思っていたんですけど」
「別に。逆に恥ずかしくて言えないな。地方公務員が悪いとは言わないが、周囲に猛烈に反対されたのは、言うまでもない」
「本当です。係長の経歴だったら国も普通にあり得ますよ」
「そうでもない。そんなにできた人間ではないのだ。落ちこぼれだ」
「そうでしょうか」
東大で落ちこぼれだって、この辺ではトップクラスじゃない。
それに。
保住よりできる人間は確かにいるのかもしれないが、田口からしたら、すごい能力の人だと思うのだ。
「ここに入庁してきた時から、父の影響はおれに大きくあった」
「そんな事あるんですか?」
「田口は、まだ理解していないかもしれないが、役所内には派閥があるようだ。おれも知らなかったが、父は父なりに必死に仕事をしてきた結果、支持してくれている人がたくさんいたようだ。父を支持していた派閥は、頭を失って衰退していたようだ。そこにおれが入ってきた」
「好機ですよね。係長を祭り上げれば派閥が息を吹き返す」
「そう言うことだな」
「いい迷惑ですね。係長。そう言うの嫌いじゃないですか?」
「よく分かるな。その通り」
「でも、派閥があるってことは相反する勢力もあるってことですよね」
保住は、苦笑する。
「昨日、澤井からその話を聞かされた」
「局長から?……あ」
澤井の年齢は確か。
保住の父親世代では?
「澤井は、父と同期だった。そして、父とは対立する派閥のトップだ」
「それで……」
それで。
保住が嫌いなのか。
いや。
嫌いなのだろうか?
あの人。
保住を見る目は、見たこともないくらい優しい感じだと思うが。
「目をつけられていたのはそういう理由かと思ったら不愉快だ。おれはおれなのに。父とは関係ないのだ。おれは、あの人が嫌いだ」
「お父さんですか?」
「そうだ」
保住は、じっとしている。
彼の中には、彼にしか理解できない様々な思いがあるのだろう。
田口には、理解できない。
だけど、保住がとても辛そうにしているのはよく分かる。
「すみません。おれ。気の利いた言葉をかけることができません」
田口の戸惑いを感じ取ったのか。
保住は笑った。
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