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第2章–18 都会猫の苦悩
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保住の父は、彼同様に優秀な男だった。
市役所に入り、人当たりのいい人格が功を奏したようで、早々と上層部に気に入られてどんどん出世した。
人望もあり、後輩たちにも好かれて、自宅で気の合う人たちで集まって、今後の市政について語り合うような機会も多かった。
それに引き換え、澤井は能力が秀でていたが、この性格だ。
人の弱みに付け込んでのし上がっていくタイプ。
保住の父親とは逆パターンだ。
澤井は恐怖政治的なことをしていく男だ。
彼の取り巻きは、彼に弱みをつつかれたくない奴ばかり。
本当に澤井を思って着いてきている人間は一握。
そんな正反対の二人は、事あるごとに対立していた。
当の本人たちがどこまでお互いを憎み合っていたのかはわからない。
ただ、取り巻き達がそれらを助長していことには違いない。
「保住。どう?調子」
二日酔いが抜けない。
水分を摂りながら昼休みを中庭で過ごしていると、初老の男に声をかけられた。
上品そうな長身の男性。
白髪交じりで人好きのする顔だ。
「吉岡部長」
「具合悪そうだな」
「二日酔いです」
「珍しい」
彼はそう言うと保住の隣に座る。
父親の取り巻きの中心人物。
それがこの吉岡だ。
彼は、保住の自宅にもよく遊びに来ていた。
父親も彼をとても信頼しており、よく行き来していたようだ。
母親も吉岡の妻とは交流があり、今でも家族ぐるみの付き合いをしている。
大学などで家を離れていた保住にしたら、あまり馴染みはないが。
妹のみのりは吉岡に懐いているようだった。
父親が死んでから、彼が父親代わりのような立ち位置にいたせいかもしれない。
それだけ彼は、父親亡き後に自分たちに尽力してくれているからだ。
かく言う自分も、こうして好き勝手させてもらっているのは彼の後ろ盾があるからとも言える。
「澤井にちょっかいだされているみたいだね」
昨日の今日だ。
さすがに保住も動揺した。
吉岡が昨日の一件を知るはずもないことなのに。
動揺している保住を見て、吉岡は心配そうな顔をした。
「何かあったらおれに相談して」
「すみません。でも大したことではないです。仕事上のことです」
「仕事上から逸脱していることが多いだろう。澤井の要望は」
「ありがとうございます」
「今度ゆっくりね」
吉岡は、そう言うと手を振って立ち去る。
疲れる。
何をするにも父親の影響は大きい。
吉岡は、いい人だ。
分かっている。
だが、それは父親がいたからこその関係性だ。
素直に一人の人間として見てもらえているのか疑問。
自分の力じゃない。
期待の新星だなんて笑わせる。
結局は、親の七光りだ。
そんなこと気にしなければいいのに。
そんなことを乗り越えるために同じ職種についたわけではないのに。
嫌になる。
「田口……」
まっすぐに見る彼の視線は、保住には痛いくらい突き刺さる。
田口の視線を見ていればわかる。
自分への期待。
そんな素晴らしい人間ではないのだ。
薄汚れたちっぽけな男。
父親の存在を乗り越えられないような。
ダメなやつ。
そして、そんなことにこだわっているようなクズだ。
「きついな」
否応なしに色々なことに向き合わされていく。
精神的にきつい立場だ。
「中間管理職なんてなるもんじゃないな」
保住は、自嘲するように笑い、ミネラルウォーターをあおった。
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