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第2章–19 初戦
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拳を握りしめて、変な汗が背中を伝わるのがわかる。
この時間。
本当に嫌だと思った。
カサカサと紙のめくられる音だけが大きく聞こえた。
「そうだな。60点かな」
保住の声に、息を潜めていた他の職員たちも表情を明るくした。
「やったな!田口」
「本当だ。係長のお眼鏡にかなったのなら安心だ」
「し、しかし。まだまだ合格ラインギリギリですが……」
とは言いつつ、嬉しいのは嬉しい。
「10点からの進歩だぞ!」
渡辺にからかわれる。
みんなに、もみくちゃにされている田口を見ていると、随分この部署に馴染んだものだと感じる。
保住は、ネクタイを締め直した。
「係長?」
「田口、それ持って局長のところに」
「係長?!60点で勝負するんですか?」
「結構ギャンブラーですね……」
矢部と谷口の言葉に田口は、不安になる。
「えっと」
「企画書ができたら、担当者が直々に局長にプレゼンするんだよ。OKないと話し進められないだろう?」
谷口の説明に「確かに」と頷く。
企画書を作るのが目的ではない。
事業の実施が目的なのだ。
「60点で大丈夫でしょうか?」
不安そうな谷口の言葉に保住は笑顔を返す。
「例え90点の企画書でもプレゼンがダメならダメです。60点でもお前のプレゼン次第で90にも100にも跳ね上がる」
プレッシャー……。
田口は、お腹が痛む。
「係長、それは励ましというよりプレッシャーですよ」
渡辺は苦笑。
「そうですか?励ましているつもりですが……」
瞬きをする保住は、悪気がないらしい。
そのことはよく分かる。
「行けます」
田口は、深呼吸をして保住を見る。
それを受けて彼は頷くと、廊下に出た。
「頑張れー」
「局長の目を見るなよ」
「上手く行ったら歓迎会してやるぞ」
励ましなのか、アドバイスなのか、意味不明な言葉に背中を押されて廊下に出る。
澤井の部屋は廊下を挟んで向かい側だった。
「お前のやり方でやればいい」
隣に並んだ保住の手が田口の肩に添えられる。
緊張のドキドキが、別なドキドキに変わるのが分かった。
「了解です」
田口の返事を聞いてから、保住はノックをして扉を開けた。
澤井の返答など関係ないということか。
「入りますよ。局長」
ずかずかと入っていく保住の度胸には脱帽だ。
田口も恐る恐る後に続く。
「返答もしておらん。勝手に入ってくるな」
「いいじゃないですか。どうせいるのは知っています」
「お前な」
昨晩の料亭での邂逅以来、初めて顔を合わせる。
気分が悪いが、仕事は仕事だ。
あの時のことなんてなかったかのように、澤井は平常。
保住に一瞥をくれてから、田口を見た。
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