アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第2章–20 初戦、なのにボス戦
-
「茶番は終わりか。さっさと企画書の概要を説明しろ」
二人がやってきた意図をくみ取ったらしい。
澤井という男は、性格はいけ好かないが、能力は高いようだ。
すぐに察しが付く。
話が早い。
面倒ではないからいいのかも。
犬猿の仲っぽいけど、基本的には保住の仕事のスタイルに彼は近い。
入庁して最初の指導を受けたのが澤井だと聞いている。
だとしたら、澤井のやり方が保住の基本になっているのは間違いない。
だからこそ、澤井も彼を扱いやすいのかもしれない。
「あの」
自分が説明?
そうだった。
狭いながらも一人で部屋を持って仕事をしている澤井は、役所の中ではかなりの権力者。
じろりとその眼光に射すくめられると、肝が冷える思いだ。
谷口が「目を見るな」と言っていたのは、こういうことだ。
保住は、ついてきてはくれているものの、まったく手を出す気がないらしい。
傍の壁に身体を預けると、腕組をする。
完全に澤井とは対峙する気がないようだ。
田口は、持ってきた企画書を澤井に手渡すが、彼もまた、企画書など目を通すつもりはないようだ。
受け取った書類を机に投げると、田口を凝視する。
こんな威圧的な人間にプレゼンをするのは久しぶりだ。
前職の係長もひどかったが、小物だ。
澤井は、別格。
どっしりと構えられると、言葉も出てこなくなりそうだ。
だけど。
ふと保住に触れられた肩が温かい。
大丈夫。
彼もいる。
やれる。
田口は、そう確信した。
「今回のコンセプトは時代です。星野一郎の演奏会では、固有のテーマで曲が組まれてきました。例えば、スポーツ行進曲、雨シリーズなどがその代表です。そこで、今回は新しい切り口として時代をテーマにしてみました」
「時代?」
「そうです。星野一郎の一生をライフステージごとに分けてみるのです」
「……」
返答がなくても、気を取り直して続ける。
星野一郎は、創作意欲の高い男だ。
幼少時代より頭角を現し、たくさんの名曲を生み出している。
田口のコンセプトはこうだ。
梅沢で育った幼少期を第一回。
音楽学校で作曲を学んだ青春時代を第二回。
そして、上京して苦労をした時代を第三回とする構想だ。
作曲家として売れてきた時代の曲を取り扱うことは多々ある。
だからこそ。
梅沢時代に焦点を当てたい。
それが田口のコンセプトだ。
演奏家もセミプロとかではなく、思い切って小学校のコーラス部に依頼するなど、今までにない発想が多い。
3分程度のプレゼンだったが、自分のイメージは伝えられたかと思う。
「以上です」
やり切った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
30 / 344