アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第2章–22 犬、歓迎される
-
その夜。
田口は、一か月遅れの歓迎会を受けていた。
「田口ちゃん、一人前おめでとう!」
渡辺の声に、谷口と矢部は嬉しそうだ。
保住は、若い割にこういうノリにはついていけないらしい。
苦笑して、三人の様子を眺めているだけだ。
「係長、二日酔いなのに。大丈夫なんですか?」
矢部が急遽、予約をとった大衆居酒屋。
小さい個室を貸し切って男五人で飲むには少々きつい感じの場所だった。
「迎え酒だ」
田口の囁きに答える保住は、平然としていた。
「これで、田口も一人前の文化課振興係の一員であります」
歓迎会なんて言っておいて、自分たちが飲みたいだけなんじゃないのかと思うくらい、渡辺も谷口も矢部も、酒が好きみたいだ。
ビールの泡があちこちに飛び交い、大騒ぎだ。
「いつもこうなんでしょうか……」
静かに飲むのが好きなタイプの田口からしたら、面食らってしまう。
今までの部署では、そうそう飲み会もないし。
あったとして、あまり好かない場所だった。
なにせ、飲み会となると、その場にいない職員の悪口が大半だからだ。
真っ向勝負が好きなバカ正直な彼からしたら、そういう陰険な場所は好まない。
だから、いくら悪口を言われようと、そういう場に行きたいとは思わなかったから。
あまり参加したこともないのだ。
それに引き換え。
この部署の飲み会は、明るい。
仕事とは、全く関係のない話ばかりだ。
渡辺は、プライベートの話だし。
矢部は、アニメの話。
谷口は、恋人が欲しい話だし。
そういう話に時折、口を挟んで話を盛り上げるのが保住というところか。
それぞれが不愉快な気持ちになることなく、自分の話したいことを話せる場。
なかなか居心地がいいのかもしれない。
「だから、魔女っ娘マジョリーはかわいい訳。そんじゃそこらの女の子とは訳が違う訳」
酔っぱらって呂律が回らない矢部は、アニメの話を滾々としている。
「その子のどこが可愛いんですか?」
真面目に話を聞く保住に、谷口は制止をかける。
「係長、これ以上話を助長させないでくださいよ。戻ってこられなくなります」
「いいじゃないか!おれは係長にマジョリーの良さを説明しているんだぞ?ねえ、係長」
「そうですね。おれも聞いてみたい」
「まじか!」
「本気じゃないですよね?係長」
渡辺も口を挟む。
「え?矢部さんをここまで夢中にさせるのだ。見てみたいし、その魅力を聞いてみたいのです」
「係長!!」
「係長までアニメにはまったらどうするんですか?」
二人は、おろおろと突っ込みを入れ続ける。
それを見て、田口は苦笑するばかりだ。
切れ者みたいなところもあるけど、抜けているところも多い。
日本酒を自分のペースであおっている保住は、いつもの彼とはまた違う。
目の前にいる彼から視線が外せない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
32 / 344