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第2章–23 曝け出せ
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「なあ、田口?」
ぼんやりと保住に見入っていると、自分の名前が耳に飛び込んできて、はっとする。
「すみません、なんでしょうか?」
「お前、聞いてないな?」
渡辺は、目を細めて田口をにらむ。
「すみませんでした」
「渡辺さん、田口も結構、頑張ったし。疲れているんじゃないっすか」
矢部がフォローしてくれる。
「すみません」
「あ~あ。お前も、もっと自分をさらけ出さないとダメだぞ!」
今度は、田口に絡む気らしい。
渡辺は、目が座っている。
「しかし」
「いいか。ここでは、素の自分をさらけ出してなんぼだ。それができなくちゃ、まだまだ仲間とは言い切れないな」
「素の自分、ですか?」
「そうそう。素の自分」
谷口も興味津々。
「田口の生い立ちから、なにからすべて聞かせろ」
そんな。
田口は、心底困った顔をする。
「お、表情に出たぞ。困った顔」
「まじか。いつも同じ顔で何考えているかわからないくせに」
「そういう顔もするのか」
三人にいじられるのは、不本意だ。
自分を守ることで精いっぱい。
保住のことなんか気にしている場合ではなくなった。
三人との攻防を繰り広げているうちに、時間は23時を回る。
「そろそろ帰らないと。怒られる」
渡辺の言葉でお開きの空気が漂う。
「本当だ。明日は金曜日。まだ仕事あるし。係長、帰りましょうか……」
谷口が声をかけると、彼は机に突っ伏して寝入っていた。
「なんだか静かだと思ったら」
「寝ちゃったのか~……」
隣にいた渡辺は苦笑して、保住の頬をつつく。
「可愛い顔しちゃって」
「本当、本当」
谷口や矢部も苦笑だ。
昨日も澤井に付き合っていたようだし。
疲れもたまっているに違いない。
田口は、気の毒そうに保住を見下ろす。
「係長は、若いのに係長で。なのに。みんなに愛されてますね」
田口がそう呟くと、矢部は田口のほっぺを両手でつねった。
「イタタタ」
「やっと分かったか。このどんくさい奴め」
「やべしゃん……」
つねられたままでは、うまく話せない。
しかし、矢部はニヤニヤしている。
「おれたちはな。この年下上司にぞっこんな訳」
彼がそう言うと、渡辺と谷口も苦笑して頷いた。
「こんな細い身体で、柔なタイプなのにさ。局長との間に立ってくれているし」
「結構、好き勝手させてくれて」
「おれたち、守られて仕事しているんだよね。こんなやりやすい部署ないくらいだ」
確かに。
それは自分もそう思うけど。
「別に。年下だからバカにしたりなんかしない。お前はさ。最初バカにしていただろう?」
「まあ、当然の反応だがな」
「それに、だらしない上司だって好きじゃないだろう?」
矢部は、よく見ている。
そして、他の二人もだ。
だけど、自分にも言い分はある。
言われっぱなしでは尺に触る。
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