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第3章–6 入院
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「まずったなー」
渡辺は苦い顔だ。
突然のことに田口は動揺している。
保住のこともそうだが、澤井の手際の良さ。
まったくもって、自分は役立たずで用無しだ。
「一体……」
「係長って何事にも無頓着だろう?」
「ええ」
「それが体調管理も然りなんだよ」
谷口が口を挟む。
「人より寒い、暑いの閾値が高いらしい」
閾値が高いと言うことは、人より「暑い」「寒い」を感じる能力が鈍いということか。
人より感じにくいということは、気がついた時には手遅れ……。
「夏はすぐに熱中症だし、冬は凍傷になる」
「まさか……」
「そのまさかじゃん!今日の一件」
確かに。
あの保住なら頷ける。
「おれたちも暑さにやられてたからな。係長の面倒まで手が回らなかった……」
「一生の不覚」
谷口は、ため息だ。
「去年も軽く熱中症になったけど、ここまではね……」
「しかし、局長のあの手際のよさは……」
田口の言葉に、渡辺は苦笑する。
「あの人、野球だかなんだかやっているみたいで、体調悪くなった人の対処が上手いんだよ。それに、近所の熊谷医院の医者と旧友みたいで、何かあるとそこに行くみたいだ」
「そうなんですね」
「去年も結局、体調悪くなった係長を病院に連れて行くのはあの人の役目。こんなことは日常茶飯事みたいで、澤井局長に任せれば元気になって帰ってくる」
澤井に任せれば。
そうなのだな。
澤井、澤井、澤井。
保住の周りには彼の話題がいっぱい。
田口は、面白くない。
自分が対応できたかと言ったら無理だとは思う。
だけど、何も出来ないわけではないじゃないか。
保住の容体は、どうなのだろうか。
熱中症で意識が朦朧としているのは、軽度とは言わない。
田口だってスポーツをしていた。
熱中症のことは、よく分かっている。
その日の夕方。
佐久間がやってきた。
「局長からで」
一同は緊張する。
「しばらく入院だそうだ。早ければ1週間くらいだが、まだ見通しが立たないらしい。今回は重症だ」
谷口と矢部は、顔を見合わせて不安そうだ。
「しばらくは、おれが直接サポートする。また、日常のものは係長代理の渡辺さんにお願いする」
返答のないみんなの気持ちを察したのか。
佐久間は、気を取り直したように手を叩く。
「ほうちゃんが帰ってきた時に、何も進んでないのでは迷惑がかかるぞ!心配なら働け」
彼の言葉に、渡辺も笑顔を見せる。
「係長がいなくても大丈夫だと安心させよう!」
「渡辺さん」
渡辺は、みんなを順番に見渡す。
「な、谷口」
「はい!」
「矢部」
「もちろんです」
「田口」
「はい」
不安はある。
だけど、こんな時こそ団結しなければ。
田口は、そう心に言い聞かせた。
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