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第3章ー13 邂逅
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明後日は、仕事を休む。
来週から保住が復帰するなら、やることは山のように詰まっている。
田口は残業するつもりだが、途中で抜け出した。
明日退院なら、今日は面会できるはずだ。
先日、足を運んだ病院へ再び向かう。
急に思い立ったので、何もない。
手ぶらもおかしいが、売店でお菓子を買っても意味がないような気もしながら、結局は何も持たずに足を向けた。
インタホンを押すと、先日同様、女性の声が聞こえる。
「あの、どうしても面会させてもらいたいんですけど」
一度断られているせいで変に構えてしまうが、今日はあっさりと中に通してもらえた。
扉を開けると、すぐに靴の履き替えを行うスペースになっている。
田口は、戸惑いながらも下足を棚にしまい、赤い病院用スリッパを履いた。
廊下に表示している案内通りに進んでいくと、古ぼけたエレベーターがあった。
中は3階までの表示しかない。
詰所と書かれている紙の脇の2階ボタンを押す。
ガコンガコンと妙に大きな機械音が耳についた。
2階に降りると、目の前の小さな部屋から、五十代くらいの女性が顔を出した。
「右側の一番奥の部屋ね」
2階は、エレベーターと詰所を中心に廊下が左右に伸びている。
突き当たりは目視できるくらいなので、さほど広くはない。
空いている病室も多いが、開いているドアの隙間から見えるのは、高齢者が多いようだ。
緊張する。
どんな顔で会えばいいのだろうか。
ドキドキしていると、ふと中から声がした。
「入ればいい」
保住の声。
一週間ぶり。
なんだか、懐かしいような。
「田口です」
そう言い、そっと顔を出す。
中に入ると、女性が先客でいた。
「どうぞ」
「失礼します」
まずいとろに出食わしてしまったようだ。
彼女?
黒いロングヘア。
白い顔色に、薄ピンクの唇はよく映える。
漆黒の瞳は、どこか保住を彷彿させた。
「すみません、お取り込み中なのに……」
女性が退けて、初めて保住が視界に入る。
彼は、薄い緑の病衣をまとっていた。
痩せているのに。
さらに痩せた?
いや。
やつれたか。
蒼白な顔色は、ますます具合が悪そう。
「田口か。お前が来てくれるなんて、嬉しい」
彼は、そう言うと笑う。
「すみません。明日、退院と聞きましたので、どうしても心配で」
「澤井に聞いたのか」
「はい」
点滴が繋がっている左手を眺めて、彼は目を細める。
「今回ばかりは、あの人に助けてもらった」
「はい。局長がいなかったら、ですね」
「本当だ」
「それに、今日は、局長からもう一つ頼まれごとをされました」
田口はそう言うと、女性を見る。
このまま話してもいいのだろうか。
田口の意向を汲み取ったのか。
彼女は、朗らかに笑う。
「私のことは気になさらずにどうぞ」
彼女はペコリと頭を下げる。
「ちょっと飲み物買ってくるわ」
「そうか」
出て行く女性を見送る。
随分親しい感じだ。
田口は、胸がチクチクした。
恋人、なのだろうか。
綺麗な人だ。
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