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第4章ー1 犬の故郷へ
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雪割町は、人口1万人くらいの小さい町だ。
元々は米どころで、農家が多い。
市町村合併が始まった頃から、町は合併しない選択肢を突き進んだ。
それが良かったのか、悪かったのか。
結果的には、良かったのだろう。
付近の町村も財政的に余裕があったわけではない。
面積ばかり広がっても管理は大変だ。
農産物だけでなく、基本的なところの改革に着手し、子育てのしやすさナンバーワンを目指し、若い人たちの移住を促した。
その結果、人口は1万人をキープし、なんとか盛り返して来ているところだ。
「係長、大丈夫ですか」
助手席を倒して、うたた寝をしていた保住。
田口の声に目を開ける。
「一時間とは言え、車に乗っているのはきつかったですね」
体調がイマイチの彼からの返答を期待していない田口は、どんどん話を進めた。
保住は、黙って天井を見上げていたが、ぽつりと呟く。
「嗅いだことのない匂いがする」
少し開いている窓から入り込んでくる匂いか。
田口にとったら馴染みの匂いすぎて、なにがそうなるのかわからない。
「臭いですか、すみません」
「いや、いい匂いだ。おばあちゃん家みたいなイメージ」
「係長のおばあちゃん家は田舎ですか?」
「いや、梅沢だ」
田口は、苦笑する。
「イメージですね。本気で」
信号で止まって保住を見ると、彼の漆黒の瞳に青い空が映る。
生気のないくすんだ瞳だ。
体調は、思わしくないのだろうな。
「家に来たら、なにも構うことはありませんから。ずっと横になっていてください」
「起きていたいところだが、多分無理だ。お言葉に甘えてもいいのだろうか。おれなんかが来て良かったのか?お前の大事な夏休みだ」
「構いませんよ。どうせ、実家に来ても、おれもゴロゴロしているだけです」
「親御さんだけか?」
「いえ、祖父母と両親と、兄家族です。兄家族は子供が三人で……全部で9人家族です」
保住は笑う。
「テレビに出てきそうな大家族だな」
「そうですか?雪割では三世代、四世代がザラです」
「そうか。それはそれでいいな」
瞳を閉じる保住は、話すことも疲れているようだ。
田口は黙る。
休ませると言っておきながら、自分が一番足を引っ張ってはいけない。
時計は6時を指すところだ。
ジリジリとた日差しは、多少和らぐ。
軽く沈んできた夕日が、鮮やかなオレンジ色を作り始める。
猛暑といえど、雪割の夏は朝晩寒いくらいだ。
風邪をひかないように注意しないと。
そんなことを考えながら、田口は自宅を目指した。
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