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第4章ー4 田口家
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7時を過ぎて、やっと日が落ちてきた。
薄暗くなってきた外を眺めていると、兄の金臣(かねおみ)が帰ってきた。
「銀太。帰ってきたのが」
「おかえり」
「で?お客さんは?」
彼も興味津々。
金臣は、母親に似ている。
大柄な割に、少し太っていて人柄の良さそうな笑顔。
金臣は、地元の農協に務めている。
今年38歳。
田口とは、年が離れている。
どの部署にいるのか分からないが、係長をしているとのことだ。
本業は農協だが、稼業を手伝ったり、父親の政治活動の手伝いもしている。
活発で社交的。
面倒見もよく、田口のことを心配してマメに電話をくれる兄だ。
その大柄な兄の後ろから、茶髪のボブヘアの痩せている女性が顔を出した。
妻の真樹だ。
金臣とは、大学時代に知り合ったようだ。
結婚をして、地元にある農業試験場に勤務している。
面倒見がいいのは確かだが、金臣とはまた違ったタイプで、さばさばしている。
「銀ちゃん、で?都会のおじさんは?」
彼女がそう言うと、台所から料理を運んできた母親が口を挟む。
「それが、おじさんじゃながったのよ」
「え?」
「銀太とそう年の変わらない、可愛い男の子」
男の子って年でもないのだが……。
「ええ!?剥げてるおじさんじゃないの?やだ。どうしよう。おじさんでも緊張しちゃうのに、そんな若い人だったなんて」
こんな調子だから、母親の咲良とは気が合わない。
いや、同じようなタイプだからこそ、ぶつかるのだが……。
嫁姑問題は、田口家でもあるのだ。
玄関先で大騒ぎになっている親を冷ややかな目で見ながら、年頃な女の子がすっと自宅に入って来る。
田口は、声をかけた。
「おかえり、芽依(めい)ちゃん」
ジャージ姿に、黒髪を二つに縛っている。
くりんとした瞳を細めて、田口を見る。
「おかえり。銀ちゃん」
「部活?」
「うん」
それだけ言うと、彼女はさっさと自室に消えていった。
「なんだか芽依ちゃん、大人びた?」
田口がそう首を傾げると、母親は笑う。
「芽依も思春期でしょう。最近は、ちっとも口きかないのよ」
「へ~……」
そんな年頃か。
芽依は金臣の長女。
今年、中学二年生の14歳だ。
部活は、水泳部。
田口が自宅にいる頃は、一緒に遊びに行ったりしたものだが。
そういう年頃か。
「あれ?他の二人は?」
と言いかけると、外から泥だらけの小学生が二人帰ってきた。
「銀太~!おかえり」
「銀太だ!」
「こら!おじさんを呼び捨てするな!」
真樹に怒られても、二人は平気。
長男の陽人(はると)は11歳。
小学5年生。
次男の陽太(はるた)は8歳。
小学3年生。
二人とも、やんちゃで活発な男の子だ。
金臣の指導の下、剣道をしている。
夏休みで自宅にいても、日中は、ほぼ外に遊びに行っているようだ。
「大きくなったな。二人とも」
田口にタックルをしたり、背中をバンバン叩いたり。
二人は、嬉しくて大騒ぎだ。
「もう!ごはんにするから。さっさと手洗ってきなさい」
母親の声に、二人はわいわいと廊下を入っていく。
このうるささ。
落ち着いて休ませられないな。
そう思う。
「そろそろご飯だけど。どうする?係長さん、じゃなくて、えっと」
「保住さん」
「そうそう」
「わ~、早く会いたいわ」
「お前ねえ」
妻が目をきらきらさせているのが面白くないのか。
金臣は、ぶうぶうと頬を膨らませる。
「様子見てくる」
うるさいのは、いつものこと。
だけど、こういう中で育ったから。
田口にとったら、気持ちが和らぐ。
ほっこりした気持ちのまま、廊下を歩いて自室に顔を出す。
「係長、入りますよ」
そっと障子を開けると、保住は眠り込んでいた。
それはそうだろう。
疲れているのだ。
まだ体は休息が必要だ。
うつぶせになって。
すやすやと寝息を立てている保住を、とても起こす気にはなれない。
後で、なにか持ってくればいいだろう。
早めに夕食を終えて帰ってこよう。
そう思いつつ、田口は久しぶりの晩餐に向かった。
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