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第4章ー5 逃れられない柵
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夢を見ていた。
父親の夢だ。
いつも居間の窓辺の椅子に座っていた。
本を読みながら、庭を眺めている彼の後ろ姿。
声をかけていいものかどうか、いつも迷っていたことを思い出す。
「お父さん」
彼は、振り向く。
どんなに小さい声で呟いても、彼はいつでも振り向く。
そして、両手を広げて自分を迎え入れてくれるのだ。
「なお、おいで」
「お父さん」
手を伸ばすとすぐに抱きしめてもらえるのに。
どうして、躊躇してしまうのだろう。
澤井の、手の感触が未だに残っている。
「お前は父親に似すぎている。ふとあいつがそこにいるような気持ちにさせられる」
澤井の口元が視界に入る。
違う。
自分は、父ではない。
父のことは知らない。
田口とそっくりの田口の父親が脳裏をかすめる。
父親とは、そういうものか?
なんなのだ。
どうしてこうも、父親から逃れられないのだ。
半分、覚醒しているのだ。
目を開けたくないだけ。
途中からは、夢ではない。
自分の思考の産物だ。
目を開くと、見慣れない木の天井。
辺りは薄暗い。
大きく取ってある障子から青白い光が洩れている。
障子だと、こんなにも明るいのだな。
顔だけを動かし、そっと障子を眺める。
部屋の一角に灯っている行灯の光が、温かい橙色で馴染む。
「ここは」
田口の実家だ。
思い出す。
寝ている間に一瞬現実を見失ったが。
何時なのだろうか。
自分は、寝ていたのだな。
クーラーもないのに、涼しい。
こんなにも違うものなのだろうか。
遠くから賑やかな声が聞こえてくる。
身体を動かすことも面倒だ。
じっとそのままの姿勢でいると、障子戸が開いた。
「入ります。係長。起こしちゃいましたね」
「起きていた。すまない。寝てばっかりで」
「そうしてもらうために、来てもらったんじゃないですか」
田口は笑顔を見せて、手に持っていたお盆を側のちゃぶ台に置く。
「食べられますか。母さんが具合の悪いときこそ、味噌汁とおにぎりって」
「それは美味しそうだ」
正直。
だけど。
「全部食べられる自信がない。口をつけたら悪い」
「そう言うと思いました。大丈夫です。後片付けはおれがやるので。遠慮しないで残してください。少しでも腹に入れないと。身体が日常に戻れませんよ」
田口はそう言うと、お盆を差し出した。
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