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第4章ー7 ちっぽけな想い
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「地元では期待されている家です。田口家は。父も地域を取りまとめる役をやっている内に、町議会議員になりました」
「そうか。素晴らしいお父さんだな」
「大したことないです。こんな小さな町ですから……」
「そんなことはない!」
保住は、急に大きな声を出す。
田口は、びっくりしてキョトンとする。
「大なり小なりは関係ない。地元の為に尽力されている素晴らしいお父さんだ。なかなか出来ないことだぞ?好かれる仕事ではない」
確かに。
地元の人たちに推されて議員になったものの、なったらなったで、「あれをしてくれ」「これをやってくれ」とみんなそれぞれ勝手なことばかり言うものだ。
そして、出来ないと陰口を叩かれる。
全くもって損な役回りだ。
父のそれを、兄は引き継ごうとしているのだ。
それもまた、田口にしたら考えてしまうことだ。
「何度も帰ってくるように言われています。父や兄を手伝えって。役場に勤めればいいじゃないかと」
「確かに。その選択肢は妥当かもしれないな。梅沢に縁もゆかりもないのだから」
「ですよね」
「しかし、選ばないのだな」
「そうなんですよね。正直迷ってはいます。ただ、地元は好きだけど、ここに留まるのは、なんか少し違う気がして」
「違う?」
「う~ん……」
田口は、悩む。
いつも悩んでいることだけど、こうして人に話をしたことはない。
だから、言葉をどう選んだらいいのか分からないのだ。
「えっと。ここにいれば何不自由ないと思うんです。だからこそ」
「一人でやってみたい」
保住がぼそっと呟く。
「そう。そうかも知れません。自分の力を試したい」
「試すだけか?」
「いや。成功させたい」
「成功?」
「何がゴールなのか分かりません。でも、今ある仕事をやっていきたいんです。自分の力で」
今は、そう思うのだ。
と、田口は内心思う。
正直。
今の部署に来るまでの間は迷っていた。
戻ったほうがいいのかなって。
でも。
「係長と同じ部署になれて、良かったです」
「おれ?」
「そうです。仕事が楽しくなりました。色々と教えてもらいたいことがたくさんあります」
「随分、照れくさいことをストレートに言ってくれる」
一瞬、驚いた表情をしていた保住は笑う。
そして、言った張本人も、とてつもないことを口にしたことに気が付いて顔を真っ赤にする。
「え!?係長!からかわないでくださいよ!」
「からかってはいないのだが……」
「もう、いいから飯食ってください」
「しかし、」
そんな押し問答をしていると、障子の向こうから鈴の音のように通る女性の声がした。
「お取り込み中のようだけど、銀ちゃん、お食事どう?」
田口は、はっとして顔を上げた。
そっと障子が開き、顔を出したのは田口の姪の女の子だ。
「まだだから。おれが片付けるからいいって母さんに言ったのに。悪いね。芽衣ちゃん」
田口の母親に、様子を見てくるように言われたのだろう。
彼女は、恥ずかしそうに田口と保住を見る。
「すっかりおしゃべりに夢中になっていたな。申し訳ない」
保住がそう言って笑顔を見せると、彼女は顔を赤くして障子を閉めた。
「気を悪くするようなことを言っただろうか?」
保住は、首を傾げる。
田口は、呆れた。
鈍感。
さすがの自分も、芽衣の気持ちは分かる。
「ともかく。どうぞ、召し上がってください」
「そうだな。話をしたら少し気分がいい。食べてみよう」
彼はそう言うと、おにぎりを持ち上げた。
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