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第4章ー8 よく働く男
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翌日の金曜日。
祖父と父親は、いつもの通りに畑仕事に出かけていった。
兄夫婦も仕事だ。
芽衣は午前中は部活。
小学生たちも、午前中は寺子屋行きだ。
夏休み、小学生たちは、近くの寺に集まって宿題をするのだ。
この時期、農家は忙しい。
子供たちのことばかり構ってはいられないのだ。
寺の住職の好意で、特設学童クラブの開催なのだ。
田口の帰省最大の理由は、土曜日に開催されるクラス会である。
そのクラス会以外は、実家でのんびりする計画だったので、金曜日は特にやることもなく、家業の手伝いだ。
「すみません、行ってきます」
まだ起きられずに、床にいる保住に声をかけると、彼は本気で申し訳なさそうな顔をしていた。
「気になさらずに。少しでも身体を戻してください」
そう言ってから障子を閉める。
田口家の人間が保住に多大なる興味を抱いていることは一目瞭然。
彼をなんとしても、自室から出す訳にはいかないのだ。
絶対だ。
田口は、そう言い聞かせてから、玄関に向かった。
こうして何もしていないのに。
うつらうつらしているせいか、時間の感覚もない。
蝉の鳴く声がよく聞こえてくる。
昼が近いのだろうか。
「あの、起きてます?係長さん」
ふと優しげな落ち着いた女性の声が響く。
田口の母親だと、一瞬で認識する。
「起きています」
障子が開くのと同時くらいに、保住は体を起こす。
「あらあら。寝ていていいんですよ」
「そうもいきませんが、本当に申し訳ないことばかりです」
「ずっと寝てるがら、着替えどうかしらと思って」
彼女が持参したのは藍色の寝巻きだ。
「これは珍しいですね」
「療養中は、今時の服では汗を吸い取らないがらね。家ではこれに限るんですよ」
「そうなんですね」
馴染みのないそれだが、田口の母親の言うことは一理あるのだろう。
「肌触りがいいですね」
「是非よがったら」
「ありがとうございます」
「それと、銀太は遅れてくると思うから、昼食を持ってきますね」
田口は、まだ手伝いか。
よく働く。
保住は思う。
自分が実家に行った時は、ともかく自分の仕事ばかりで、母親の手伝いをするなんてことはない。
親孝行なものだ。
見習わなくてはならない。
「いえ。運んできてもらってばかりでは申し訳ありません。ただ、逆におれが出て行かない方がいいのであれば、ここにいますが」
「あらやだ!そう言う意味ではなくて」
田口の母親は、顔を赤くして笑う。
可愛らしい女性だ。
「係長さんにご迷惑がと思って」
「おれは、そんなことは」
「じゃあさっそく!一緒に食べましょうよ。張り切っちゃおうがな〜」
彼女は、嬉しそうに手を叩いて部屋を飛び出した。
大丈夫だろうか。
彼女の出て行った戸を見て、保住はため息をついた。
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